想定読者
社内に情報システム担当を専任で置いていない中小企業で、経営者や総務担当者としてルーター・Wi-Fi・スイッチといったネットワーク機器の管理状況に不安を感じている方を想定しています。
要点
- 古い機器を放置すると、サポート終了(EOL)によるセキュリティリスクや、故障時に代替品がなく業務が止まるリスクが積み重なります
- ネットワーク機器の点検は、気づいたときに対応するのではなく、期首など決まったタイミングで棚卸しする年1回の恒例行事にすると定着しやすくなります
- 点検項目をあらかじめチェックリスト化しておくことで、担当者が変わっても同じ基準で確認でき、属人化を防げます
導入
10月から新しい期を迎える企業も多い時期です。新年度・新期の始まりは、予算や体制を見直す節目であると同時に、社内で使っているネットワーク機器の状態を確認する良いタイミングでもあります。
ルーターやWi-Fiのアクセスポイント、スイッチといった機器は、一度設置すると日々の業務の中で意識されることが少なく、「動いているから大丈夫」という感覚で何年も放置されがちです。しかしネットワーク機器は、時間が経つほどセキュリティ上のリスクが高まり、故障したときの対応も難しくなっていきます。本記事では、専任の情報システム担当がいない中小企業でも無理なく続けられる、ネットワーク機器の点検習慣づくりについて解説します。
なぜ期首にネットワーク機器を点検すべきか
古い機器を放置する3つのリスク

古いネットワーク機器を特に理由なく使い続けることには、主に次の3つのリスクがあります。
1つ目は、セキュリティパッチが提供されなくなることです。ネットワーク機器のメーカーは、発見された不具合や脆弱性(システムの弱点)に対応するため、ファームウェア(機器を動かす基本的なソフトウェア)の更新を配布しています。しかし古い機種は更新の対象から外れ、新しい脆弱性が見つかっても修正されないまま使われ続けることになります。
2つ目は、故障時に代わりの機器がすぐに手に入らないことです。古い機種は生産が終了していることが多く、同じ製品で交換することが難しくなります。別の機種に買い替える場合も、設定の見直しや動作確認に想像以上の時間がかかることがあります。
3つ目は、取引先や顧客からの信用に関わることです。取引先からセキュリティ対策の状況を聞かれることもあります。社内のネットワーク機器が長期間放置されていることが分かると、情報管理そのものに対する不安を持たれてしまう可能性があります。
「壊れたら交換」が通用しない理由
ネットワーク機器について、「壊れてから交換すればよい」という考え方は、以前であればある程度成立していました。しかし、現在はこの考え方だけでは対応しきれない場面が増えています。
まず、機器が完全に壊れる前に、性能の低下や通信の不安定さといった形で業務に影響が出ることがあります。原因がネットワーク機器にあると気づかないまま、別の対応に時間を使ってしまうケースも少なくありません。
また、壊れてから代替品を探し始めると、調達や設定作業の間、業務用のネットワークが使えない状態が続いてしまいます。結果的に「壊れたら交換」という対応は、トラブルが起きたときの被害を大きくしてしまう選択になりがちです。だからこそ、壊れる前の段階で機器の状態を把握しておく棚卸しの仕組みが必要になります。
棚卸しで確認したい点検観点
ネットワーク機器の棚卸しでは、個々の機器について次の3つの観点から状況を確認します。横並びで比較しやすいよう、観点ごとの確認内容を整理すると次のようになります。
| 点検観点 | 確認内容 | 確認頻度の目安 |
|---|---|---|
| 設置場所・台数・用途 | 機器一覧と使用場所 | 年1回の棚卸し時 |
| ファームウェア更新 | 更新状況と最新版の有無 | 年1回+随時 |
| EOLの有無 | サポート終了時期 | 年1回の棚卸し時 |
それぞれの観点について、具体的な確認の仕方を見ていきます。
機器の設置場所・台数・用途の把握
まず基本となるのが、社内にどのようなネットワーク機器がどこに設置されているかを把握することです。本社だけでなく、支店や倉庫、会議室など、見落とされがちな場所に機器が設置されていることもあります。
棚卸しの際は、機器の種類(ルーター・アクセスポイント・スイッチなど)、設置場所、台数、主な用途(来客用Wi-Fi、基幹システム用のネットワークなど)を一覧にしておくと、後の点検作業がスムーズになります。この一覧自体が、翌年以降の棚卸し作業の土台にもなります。
ファームウェア更新状況の確認
機器の一覧ができたら、それぞれのファームウェアが最新の状態になっているかを確認します。更新が止まっている機器があれば、なぜ更新されていないのか(自動更新の設定が無効になっている、長期間メンテナンスをしていない、など)を確認します。
ファームウェアの更新は、新機能の追加だけでなく、セキュリティ上の問題を修正する目的で配布されることが多くあります。更新を後回しにする運用が定着してしまうと、脆弱性が放置されたままになりやすいため、棚卸しのタイミングでまとめて確認することが有効です。
メーカーサポート終了(EOL)の有無
最後に確認したいのが、各機器のメーカーサポートが終了(EOL)していないかどうかです。サポートが終了した機器は、新たな脆弱性が見つかっても修正プログラムが提供されなくなります。
サポート終了の情報は、メーカーの公式サイトの製品ページやサポート情報のページで確認できることが一般的です。棚卸しの一覧に、各機器のサポート終了予定時期や終了済みかどうかの欄を設けておくと、次回以降の点検で状況の変化を追いやすくなります。サポートが終了している、または近い将来終了する機器については、更新や入れ替えの計画を早めに検討しておく必要があります。
点検を「年1回の恒例行事」として定着させる運用のコツ

ネットワーク機器の点検は、一度きりの作業ではなく、継続して行うことに意味があります。ここでは、専任の担当者がいない中でも点検を続けやすくするための工夫を紹介します。
実施タイミングと担当者を先に決めておく
点検を定着させる最も効果的な方法は、「いつ」「誰が」行うかをあらかじめ決めてしまうことです。期首や年度初めなど、社内の他の見直し作業と時期を合わせておくと、点検自体を忘れにくくなります。
担当者についても、特定の個人に依存させず、総務部門や管理部門といった部署単位で「点検担当」を定めておくことをおすすめします。異動や退職があっても引き継ぎがしやすくなり、点検の継続性が保たれます。
点検結果を記録として残し、翌年と比較できるようにする
点検の結果は、その場で確認するだけでなく、記録として残しておくことが重要です。表やシートの形で、機器ごとの確認日・ファームウェアの状態・サポート終了状況などを記録しておけば、翌年の点検時に前回との違いを簡単に比較できます。
記録を比較することで、「去年指摘した機器がまだ対応されていない」「新しく増えた機器の確認が漏れている」といった状況にも気づきやすくなります。記録は特別なシステムを使わなくても、表計算ソフトのファイル一枚で十分に運用できます。
チェックリスト化で属人化を防ぐ
点検作業を特定の担当者の経験や記憶に頼ってしまうと、担当者が変わった際に点検の質が大きく変わってしまうことがあります。これを防ぐために、点検項目をあらかじめチェックリストにしておくことをおすすめします。
チェックリストに入れておきたい項目
チェックリストには、最低限次のような項目を入れておくと、誰が確認しても同じ基準で点検ができます。
| 確認区分 | チェック内容 |
|---|---|
| 機器一覧 | 設置場所・台数の最新化 |
| 用途確認 | 使用目的の変化の有無 |
| 更新状況 | ファームウェアの最新性 |
| サポート状況 | EOLの有無と予定時期 |
| 対応記録 | 前回指摘事項への対応 |
このようなチェックリストを用意しておくことで、点検担当者が変わっても確認漏れを防ぎやすくなり、点検そのものの質を一定に保つことができます。チェックリストは一度作ったら固定するのではなく、点検を重ねるたびに項目を見直し、自社の状況に合わせて更新していくとよいでしょう。
社内で対応しきれない場合の外部依頼の判断基準

棚卸しや点検を進める中で、社内のリソースだけでは対応が難しいと感じる場面も出てきます。例えば、設置されている機器の種類が多く専門的な知識が必要な場合や、サポート終了が判明した機器の入れ替え計画を立てる必要がある場合などです。
このような場合は、無理に社内だけで対応を続けるのではなく、外部の専門事業者に相談することも選択肢の一つです。判断の目安としては、「点検自体に時間がかかり本来の業務を圧迫している」「サポート終了後の対応方針を自分たちだけでは決めきれない」といった状況が続いているかどうかが挙げられます。外部に依頼する場合も、社内で作成した機器一覧やチェックリストがあれば、状況の共有がスムーズになります。
まとめ
ネットワーク機器は、一度設置すると意識されにくい一方で、時間が経つほどセキュリティ上のリスクや故障時の対応リスクが積み重なっていきます。期首など決まったタイミングで棚卸しを行う習慣をつくり、設置状況・ファームウェアの更新状況・サポート終了の有無を確認することで、こうしたリスクを早期に把握できます。
点検をチェックリスト化しておけば、担当者が変わっても同じ基準で確認を続けられ、属人化を防ぐことにもつながります。まずは今期の棚卸しから、ネットワーク機器の点検を社内の恒例行事として始めてみてはいかがでしょうか。
