想定読者
ChatGPTやClaudeなどの生成AIを日常業務で使い始めたものの、毎回同じ説明や同じ修正依頼を繰り返して疲れてしまっている、中小企業の経営者・ご担当者の方です。
AIの使い方を「プロンプトの腕前」から「仕組み」に切り替えたい方に向けて書いています。
要点
- AIの出力が安定しない原因は、プロンプトの工夫不足よりも「毎回の前提条件を渡していないこと」にあることが多い。CLAUDE.mdに共通ルールを書いておけば、同じ説明を繰り返さずに仕事の質がそろう
- 前提条件は1か所にまとめず、ジャンル別の「スキル」、目的別の「Obsidianノート」へと3段に分けると、読み込む情報が絞られて効率が上がる
- 一度作って終わりにせず、使いながら直して育てるほど、自社にしっくり馴染むAIになる
AIが毎回同じ失敗をする|プロンプトを覚え続ける運用の限界
「プロンプトを工夫すれば賢くなる」は正しくもあり、誤りでもある
AIはプロンプトを工夫すれば賢くなる? 正しくもあり、誤りでもあります。
正しい点は、依頼の書き方ひとつで出力が大きく変わることです。目的、相手、文字数、避けたい表現を具体的に書けば、答えの質は確かに上がります。
一方で誤りと言える点もあります。どれほど上手なプロンプトを書いても、それは「その1回」の質を上げるだけだからです。
翌日また新しい会話を始めれば、AIはあなたの会社のことも、あなたの好みも、昨日の修正内容も覚えていません。
優れたプロンプトを毎回ひねり出し続ける運用は、頑張る人の記憶力と根気に頼った、長続きしにくい方法です。
毎回ゼロから説明していることに気づく

日常の業務を思い浮かべてみてください。次のようなやり取りに、心当たりはないでしょうか。
- 見積書の文面を頼むたびに、「敬語はていねいに、でも回りくどくしないで」と書き添えている
- メルマガの下書きを頼んでは、「うちのお客様は経営者が中心だから、専門用語は控えめに」と同じ指摘をしている
- 問い合わせへの返信を頼んだ結果、毎回「お世話になっております」の前置きが長すぎて、同じ箇所を直している
- 議事録の要約で、「決定事項と担当者と期限を分けて」と毎回お願いしている
これらは、AIが悪いというより「前提を渡していない」ために起きています。新しい人に仕事を頼むとき、会社の方針や文書の書き方を何も伝えずに任せれば、毎回違う出来になるのは当然です。
AIも同じです。
人間の行動の約43%は習慣という研究と、AIへの指示が繰り返しになる理由
ここで、人間の行動について少し考えてみます。南カリフォルニア大学(USC)の心理学者ウェンディ・ウッド(Wendy Wood)氏らの共同研究では、人が日常で行う行動のおよそ43%は習慣的に、つまり同じような状況で繰り返し行われていると示されています。
大事なのは、AIにプロンプトを打ち込んでいるのも私たち自身だという点です。人間の行動の多くが反復なら、私たちがAIに頼む仕事の多くも反復のはずです。
毎日まったく新しいことを頼んでいるわけではなく、見積書、メルマガ、返信、議事録といった「いつもの仕事」を、いつもの条件で頼んでいます。
それなら、いつもの条件は毎回口頭で伝えるのではなく、あらかじめ置いておくほうが理にかなっています。
決まった「型」があるから安定する|スポーツと習慣から学ぶ前提条件の考え方
野球・サッカー・ダンスにも、あらかじめ決められた形がある

野球のバッティングフォーム、サッカーのパスの出し方、ダンスの基本ステップ。どの世界にも、あらかじめ決められた「形」があります。
形があるから、選手は試合の最中に基本動作を一から考えずに済みます。基本が体に入っているので、意識を相手の動きや状況判断に向けられます。
型は自由を奪うものではなく、考える余力を生み出すものです。
AIとの仕事でも、同じことが言えます。「文体はこう」「この種類の文書では必ずこの項目を入れる」といった型を先に決めておけば、人間は依頼のたびに基本条件を書かず、「今回だけの内容」に集中できます。
AIにも「いつも使うルールと前提」を先に渡す機能がある
ここで、私がよく使っているClaudeの話をします。Claudeには「CLAUDE.md」という仕組みがあります。
いつも使うルールや前提条件をあらかじめ書いておける、専用のメモ書きのようなファイルです。
仕組みの詳細は使う環境によって異なりますが、考え方は共通しています。「毎回の会話の前に、AIに読ませておきたい約束事を文章で置いておく」ということです。
ChatGPTなど他のAIでも、あらかじめ指示を登録しておく機能が用意されています。呼び方は違っても、役割は同じです。
前提があると、毎回書かなくても仕事のレベルが安定する
前提条件があれば、毎回同じことをプロンプトに書かなくても、仕事のレベルが安定します。
たとえば文体のルールが置いてあれば、依頼文は「この内容で見積書の送付メールを作って」だけで済みます。
出来上がりの調子は、誰が頼んでもほぼそろいます。担当者ごとに出力の質がばらつく悩みも、前提を共有することで小さくなります。
3段で育てる前提条件|CLAUDE.md・スキル・Obsidianの全体像

前提条件は、1か所に全部書くより、3段に分けたほうが扱いやすくなります。
| 項目 | 第1段 CLAUDE.md | 第2段 スキル | 第3段 Obsidian |
|---|---|---|---|
| 役割 | 全体の共通ルール | ジャンル別の手順 | 目的別の前提ノート |
| 分け方 | 1つにまとめる | 業務ジャンルごと | 目的や案件ごと |
| 読み込み | 毎回 | 必要なときだけ | 目的の仕事で毎回 |
| 更新する人 | 代表・責任者 | ジャンルの担当者 | 実際に使う担当者 |
| 更新の頻度 | 月1回ほど見直す | 使うたびに直す | 都度追記・月1整理 |
表の見方を補足します。上の段ほど「どの仕事にも共通する大きなルール」で、下の段ほど「特定の目的に絞った細かい前提」です。
更新の頻度は目安であり、自社の仕事の動きに合わせて調整してください。次の章から、段ごとに具体例を見ていきます。
第1段:CLAUDE.mdに、いつも使うルールや前提条件を書いておく
第1段のCLAUDE.mdには、「どの仕事でも共通すること」だけを書きます。
何を書くか

中小企業の実務であれば、たとえば次のような内容です。
- 会社と事業の簡単な紹介(業種、主なお客様の層)
- 文章の基本の調子(ていねいな言葉づかい、一文を短めにする、など)
- 使ってほしくない表現、避けたい言い回し
- 迷ったときの方針(断定せず確認を促す、数字は根拠を添える、など)
- 出力の基本形式(結論を先に書く、箇条書きを使う範囲、など)
書き方のコツは、「人に引き継ぎ資料を渡すつもり」で書くことです。新しく入社した人に最初の日に伝えるであろう内容が、そのままCLAUDE.mdの中身になります。
誰が・どのくらいの頻度で更新するか
更新するのは、会社の方針を判断できる代表や責任者が適しています。頻度は、最初のうちは気づいたときに、慣れてきたら月に1回ほど見直す程度で十分です。
ここで大切なのは長く書かないことです。全業務に共通する、本当に毎回効くルールだけを残します。個別の業務の細かい手順まで詰め込むと、次に説明する理由でかえって扱いにくくなります。
第2段:ジャンルごとに分ける「スキル」で、必要な知識を必要なときだけ使う
1か所に全部書くより、ジャンル別に分けたほうが効率的
一つの場所にすべてのルールや前提条件を書いておくよりも、ジャンルごとに分けたほうが効率的です。
そこで使うのが「スキル」です。スキルとは、特定のジャンルの仕事のやり方や前提条件をひとまとまりにして、AIが必要なときに取り出して使えるようにする仕組みです。
分けたほうがよい理由は主に2つあります。
- 必要なものだけ読む:見積書を作るときに、メルマガの書き方まで読み込む必要はありません。関係のない情報が多いほど、AIは重要な指示を取りこぼしやすくなり、読み込む量も無駄に増えます
- 直す場所が明確になる:問い合わせ返信の出来に不満があれば、直すのは「返信のスキル」だけです。全部が一つのファイルだと、どこを直すべきか探すところから始まり、直した結果ほかの仕事に影響が出る心配もあります
中小企業のスキル例
業務ごとに、たとえば次のようなスキルが考えられます。
- 見積書の文面:送付メールの構成、金額や納期の書き方、有効期限の入れ方
- メルマガ下書き:想定する読者、冒頭の型、長さの目安、締めの一文のルール
- 問い合わせ返信:最初に伝える順序、断るときの言い方、確認事項のまとめ方
- 議事録要約:決定事項・担当者・期限を分けて書く形式
スキルを更新するのは、そのジャンルを一番よく使っている担当者です。修正の指摘をしたときが更新のタイミングで、「使うたびに少しずつ直す」感覚です。
第3段:Obsidianで、目的ごとにAIが毎回読み込む前提条件(外部メモリー)を作る
Obsidianとは何か
当社が使っているのがObsidian(オブシディアン)です。パソコン上のフォルダーに、Markdown形式のメモを保存して整理できるノートアプリです。
メモが通常のテキストファイルとして手元に残るため、AIに読み込ませる資料として扱いやすい特徴があります。
スキルがジャンルで分ける仕組みなら、Obsidianはさらに細分化して、目的ごとにAIが毎回読み込む前提条件を作る使い方です。
AIの外側に置く記憶なので、「外部メモリー」と呼べます。
ジャンルよりさらに細かく、目的ごとに分ける
同じ「メルマガ下書き」というジャンルでも、目的が違えば前提は変わります。たとえば次のように分けられます。
- 新サービスの告知メルマガ用ノート(伝えたいことの要点、避ける表現)
- 既存のお客様向けの季節のごあいさつ用ノート(調子、定番の書き出し)
- 特定のお客様との継続的なやり取り用ノート(これまでの経緯、先方の好み)
CLAUDE.mdやスキルの中で「この目的の仕事のときは、このノートを読む」と指示しておけば、AIは目的に合った前提だけを毎回読み込んで仕事を始められます。
なお、ノートを分ける粒度に決まりはありません。同じ説明を何度も書いていることに気づいたら、それが新しいノートを作る合図です。
誰が・何をするか
ノートを更新するのは、その仕事を実際に使う担当者です。使っていて「ここが毎回ずれる」と感じたら、その場でノートに1行足します。
月に1回、古い記述や重複を整理する時間を取れば、ノートは使える状態を保てます。
ビンテージのように馴染ませる運用と注意点|今日から始める手順とチェックリスト

こうした工夫で、あなたのAIはまるでビンテージ物の服やアクセサリーのように、あなたにしっくり馴染むようになっていきます。
最初から完璧なものを作る必要はありません。着込むほど体になじむ革製品のように、使いながら少しずつ形になっていきます。
最初の1週間でやること:同じ指摘を3回したらルールに書く
最初の1週間は、仕組みを作り込むのではなく、観察から始めます。
- AIの出力に直しを入れるたびに、その内容をメモしておく
- 同じ指摘を3回したら、それはルールとして書く合図と考える
- 全業務に共通することはCLAUDE.mdへ、特定のジャンルのことはスキルへ、特定の目的のことはノートへ書く
- 書いたら、同じ依頼をもう一度出して、出力が変わったかを確かめる
1週間で数行のルールが貯まれば、それで十分な第一歩です。
書きすぎ・古い前提・機密情報の混入に注意する
便利な仕組みだからこそ、次の3点には注意してください。
- 機密情報や認証情報を書かない:パスワード、アクセスキー、顧客の個人情報、未公開の取引条件などは、前提条件のファイルに書かないでください。「読み込ませてよい情報」は、社外の人に見られても困らない一般的なルールや方針までを目安にします。迷うものは書かない、が基本です
- 古くなったルールは見直す:サービス内容や担当者、社内の方針は変わります。古い前提が残っていると、AIは古い情報のまま忠実に仕事をします。定期的な見直しの日を決めておくと安心です
- 書きすぎて矛盾させない:ルールが増えると、「簡潔に」と「詳しく」のように食い違う指示が混ざりがちです。矛盾があるとAIの出力も揺れます。追加するときは、既存のルールと重ならないかを確認し、増やすより整理するほうを優先してください
前提条件の棚卸しチェックリストと、まとめ
AIに渡す前提を見直すときは、次のチェックリストで状態を確かめてみてください。
AIに渡す前提条件の棚卸しチェックリスト
- [ ] 全業務に共通するルールだけをCLAUDE.mdにまとめている
- [ ] 業務のジャンルごとに、スキルを分けて整理できている
- [ ] 目的ごとの前提を、ノートとして一覧にできる
- [ ] 各ファイルの更新担当者が決まっている
- [ ] 前提条件のファイルに、パスワードや顧客の個人情報を書いていない
- [ ] 古くなった記述がないことを、直近1か月以内に確認した
- [ ] 互いに矛盾するルールがないことを確認した
- [ ] 同じ指摘を3回したらルールに書く、という約束がチームで共有されている
#### まとめ
AIの出力が安定しない原因は、プロンプトの腕前ではなく「毎回の前提を渡していないこと」にあることが多いものです。
全体の共通ルールはCLAUDE.mdに、ジャンル別の手順はスキルに、目的別の前提はObsidianのノートに。
3段に分けて置いておけば、毎回の説明は減り、仕事の質はそろい、使うほどに自社に馴染んでいきます。
そして、明日の最初の一歩は一つだけで構いません。明日AIに直しを入れたら、その内容を1行だけメモしてください。 同じ直しが3回たまったとき、それがあなたのAIに最初に渡す、最初のルールになります。






















