想定読者
ネットワークの設定を特定の担当者に任せきりにしている、中小企業の経営者や、総務・情報システムを兼任している担当者の方です。
担当者が替わっても、トラブルのときに誰でも全体像をたどれる状態にしたい方に向けて書いています。
要点
- 構成図は「回線→ルーター→スイッチ→Wi-Fi→拠点」の順に、1枚で見渡せる範囲に絞って描きます。
- 管理台帳には機器名・設置場所・管理者・契約・設定変更の履歴を残し、構成図と同じ名前で結びつけます。
- 更新のタイミング・保管場所・閲覧できる人をルールにすれば、担当者が替わっても記録が古びません。
「あの人しか分からない」ネットワークが招く困りごと
担当者の異動・退職の直後に障害が起きたとき、何が起きるか

担当者が異動した翌週の朝、事務所のインターネットがつながらなくなったとします。後任の方は機器の置き場所すら分からず、まず「どの箱が何をしているのか」を探すことから始めなければなりません。
回線の契約先も、保守会社の連絡先も、前任の頭の中にしかありません。前任に電話がつながればまだ良いほうで、退職していれば手がかりがありません。
こうなると、本来なら数分で済む確認に半日かかります。その間、受発注や電話、会計システムなどが止まります。
原因は機器の故障ではなく、「記録がない」ことです。
構成図と管理台帳の違いと、両方が必要な理由

構成図は、機器同士のつながりを絵や図でまとめたものです。「どこからどこへ線が走っているか」を一目で見るためのものです。
管理台帳は、機器や契約の情報を一覧にした表です。「その機器はどこにあり、誰が管理し、いつ何を変えたか」を調べるためのものです。
図だけだと、機器の型番や契約番号、変更の経緯が分かりません。台帳だけだと、全体のつながりが想像しにくくなります。
図で全体をつかみ、台帳で詳細を確かめる。この2つをセットにして初めて、初めて見る人でもたどれる記録になります。
この記事で作るもの
この記事では、構成図1枚と管理台帳1つの作り方、そして更新・保管のルールに絞って解説します。ここでは機器の点検や切り分け手順は扱いません。
明日からの一手:まず、社内でネットワークに詳しい人に「回線の契約書はどこにありますか」と聞いてみてください。
答えがすぐ返ってこなければ、この記事の対象です。
作る前に決める3つのこと
範囲・読み手・道具
作り始める前に、次の3つを決めておくと、途中で迷いません。
1つ目は範囲です。「本社と拠点の、インターネットにつながる部分すべて」を基本とします。パソコン1台ずつやプリンターまで描くと、1枚に収まらなくなります。
まずは回線・ルーター・スイッチ・Wi-Fiの親機・拠点間のつながりまでに絞ります。
2つ目は読み手です。想定するのは「ネットワークに詳しくない後任者」と「駆けつけた保守会社の担当者」です。
専門家にしか読めない図は、引き継ぎの役に立ちません。
3つ目は道具です。手書き、表計算ソフト、作図ツールのどれでも構いません。大切なのは、更新する人が無理なく続けられることです。
凝った作図ツールを選んで更新が止まるくらいなら、表計算ソフトの1枚のシートのほうが長持ちします。
明日からの一手:範囲・読み手・道具の3つを、付箋1枚に書き出してみてください。
ネットワーク構成図に載せる範囲と描き方

回線・ルーター・スイッチ・Wi-Fi・拠点を層ごとに整理する
構成図は、外から内へ、層(階層)ごとに順番に描くと整理しやすくなります。本社と、1拠点の合計10〜30人規模を想定した、架空の例で見てみましょう。
- 本社:インターネット→回線終端装置(光回線の入り口にある機器)→ルーター(社内と社外をつなぐ機器)→スイッチ(社内の機器をつなぐ分配器)→Wi-Fi親機・有線のパソコン
- 拠点:インターネット→回線終端装置→ルーター→Wi-Fi親機
- 本社と拠点のあいだ:インターネットを通じて、暗号化したつながりで結んでいる(その旨を線に書き添える)
この順番に、上から下へ(または左から右へ)描き、最後に線の種類(有線・無線・拠点間)を凡例で示します。
各機器の横には、機器名と設置場所を小さく添えます。IPアドレスを書く場合は、社内向けの図でも例示用の192.0.2.xのような値か伏せ字にして記事や共有資料に出さず、実際の値は台帳側で管理します。
機器名の表記をそろえ、1枚に収めるコツと分け方の目安

機器名は、図と台帳で必ず同じ表記にします。たとえば「RT-HONSHA-01」(本社のルーター1号)、「SW-HONSHA-01」(本社のスイッチ1号)、「AP-HONSHA-2F」(本社2階のWi-Fi親機)のように、「種類・場所・番号」の順にそろえます。
機器本体にも同じ名前のラベルを貼ると、現場で図と現物が一致します。
1枚に収めるコツは、次の3つです。
- パソコンやプリンターなど端末は、数だけを書いて個別には描かない
- 同じ構成のスイッチが並ぶ場合は、1つにまとめて「×3台」と書く
- 文字は、印刷して一歩離れても読める大きさにする
目安として、機器が10〜15個を超えて線が混み合ってきたら、「全体図(拠点間のつながり)」と「拠点別の詳細図」の2段に分けます。
全体図は常に1枚で見渡せる状態を守ります。
ネットワークの中にVLAN(1台のスイッチの中を論理的に分け、別々のネットワークとして使う仕組み)がある場合は、機器のつながりを描いた物理構成図に加えて、論理構成図も作ることをお勧めします。
物理構成図は、機器や配線という「目に見えるつながり」を描いた図です。1台のスイッチに社内用・来客用・業務システム用などの機器が混在していても、物理構成図では1つの箱にしか見えません。
論理構成図では、VLANによる分割、つまり物理的には見えないネットワークのセグメンテーションを、色分けや枠で可視化できます。
「来客用Wi-Fiから業務システムには届かない」といった分け方が一目で分かるため、障害時の切り分けや、設定変更の影響範囲の確認に役立ちます。
なお、こうした構成図や台帳づくりのノウハウは、大規模客船のネットワーク構成図を手掛ける当社の現場でも多く使われています。
明日からの一手:本社にあるルーターを1台選び、「種類・場所・番号」の形で名前を決めてラベルを貼ってみてください。
管理台帳に残す項目
台帳に残す項目一覧
台帳は、機器1台を1行にした表です。次の項目をそろえておけば、引き継ぎやトラブルの際に必要な情報をほぼ網羅できます。
| 項目 | 何を書くか | 記入例 |
|---|---|---|
| 機器名 | 図と同じ呼び名 | RT-HONSHA-01 |
| 種類・型番 | 機器の種類と型番 | ルーター・型番は本体ラベル |
| 設置場所 | 建物・階・置き場所 | 本社2階・サーバー棚 |
| 管理者 | 社内の担当と連絡先 | 総務・山田(仮名) |
| 契約 | 契約先と書類の保管先 | 回線A・契約書は総務棚 |
| 接続先 | つなぐ機器とポート | SW-HONSHA-01の1番 |
| ポートとVLANの対応 | ポートごとの所属VLAN | 1番はVLAN10(例) |
| IPアドレス | 固定か自動かと値 | 192.0.2.1(例) |
| 保守窓口 | 保守会社と連絡手段 | 保守会社X・窓口は別紙 |
| 認証情報の保管場所 | 保管先の名前だけ | パスワード管理の「NW」 |
| 設定変更の履歴 | 日付・内容・実施者 | 別シートに記録 |
表のセルは短く書くのが原則です。長くなる内容は、台帳の別シートや備考欄にまとめます。たとえば「契約」の欄には、契約先名と書類の置き場所だけを入れ、契約内容の詳細は契約書そのものに任せます。
「ポートとVLANの対応」の欄には、「どのポートがどのVLANに属しているか」を明示します。ポートの番号だけを残しても、そのポートに差した機器がどのネットワークに入るのかは、台帳から分かりません。
VLANがない環境では「なし」と書いておけば、確認済みであることが伝わります。VLANの番号と名前の一覧は別シートにまとめ、前の章で触れた論理構成図の色分けと同じ呼び名にそろえておくと、図と台帳を行き来しやすくなります。
こうした台帳の考え方も、大規模客船のネットワーク構成図を手掛ける当社で多く使っているものです。
「設定変更の履歴」は、1行ずつ「いつ・誰が・何を・なぜ変えたか」を書き足していく別シートにすると、台帳本体がすっきりします。
履歴は、後から「前はどうなっていたのか」を知るための大切な手がかりです。変更前の状態も一言残しておくと、元に戻す必要が出たときに助かります。
明日からの一手:表計算ソフトで、上の11項目を列見出しにした空の表を作ってみてください。
更新のタイミングと担当を決める
きっかけ別の一覧表
記録が古びる最大の原因は、「いつ更新するか」が決まっていないことです。時期ではなく、「何かが起きたとき」をきっかけに決めると、忘れにくくなります。
| きっかけ | 更新するもの | 担当 |
|---|---|---|
| 機器の追加・交換 | 図と台帳の該当行 | 作業した人 |
| 設定の変更 | 履歴と台帳 | 作業した人 |
| 回線の契約変更 | 契約欄と図の回線 | 総務 |
| 担当者の異動・退職 | 管理者欄と閲覧権限 | 総務と上長 |
| 拠点の移転・増設 | 図と台帳の全体 | 情報担当 |
| 保守会社の作業後 | 履歴と台帳 | 立ち会った人 |
| 定期の見直し | 図と現物の照合 | 情報担当 |
ポイントは、「作業した人がその場で更新する」ことです。後でまとめて書こうとすると、必ず抜けが出ます。
作業の最後に「記録を更新する」を手順の一部として入れておきます。
定期の見直しは、半年に1回や年度の切り替わりなど、会社の行事に合わせて決めます。見直しでは、図と台帳を持って現場を回り、ラベルと名前、設置場所が合っているかを確かめます。
保守会社に作業を頼んだ場合は、作業報告を受け取ったうえで、立ち会った人が台帳に反映します。
明日からの一手:ネットワークの作業をするときの手順書に、「最後に台帳を更新する」の1行を足してください。
保管場所・閲覧権限・認証情報の扱い
保管場所と閲覧できる人を決める
図と台帳は、障害の最中でも開ける場所に置くことが大切です。社内のファイルサーバーだけに置くと、そのサーバーがネットワーク障害で見られなくなるおそれがあります。
そこで、次のような置き方が考えられます。
- 通常の保管場所:社内で共有している、アクセス権を設定できる保存先
- 障害時用の控え:印刷した紙を、鍵のかかる棚に1部置く
閲覧できる人は、「見る人」と「書き換える人」を分けます。見る人は、管理者・その上長・後任候補など。
書き換える人は、情報担当とその代理に絞ります。誰でも書き換えられると、いつの間にか内容が変わってしまいます。
認証情報は台帳に書かない
パスワード、共有鍵、管理画面のIDやパスワードなどの認証情報は、台帳に直接書いてはいけません。
台帳は多くの人が見る資料で、紙に印刷されたり、メールで送られたりもします。そこに認証情報が載っていると、流出したときの被害が大きくなります。
認証情報は、パスワードを安全に管理する仕組み(専用のツールや、アクセス権を限定した保管庫)の側で管理します。
台帳には「どこに保管しているか」という保管場所だけを書きます。たとえば「パスワード管理の『NW』という項目」といった書き方です。
担当者が替わるときは、この仕組み側で閲覧できる人を入れ替え、必要に応じてパスワード自体も変更します。
構成図を社外に渡すとき
保守会社など、社外に構成図を渡す場面もあります。そのときは、必要最小限にとどめます。作業に関係する部分だけを抜き出し、IPアドレスなどは伏せたり、不要な拠点の情報を削ったりします。
渡した相手と日付も、記録しておくと安心です。
明日からの一手:台帳や図の中に、パスワードが書き込まれていないかを、今日中に確認してください。
構成図と台帳づくりにお勧めのツール
当社が使っているツール
ここまでの内容を実際に作って運用するための道具として、当社が使っているものを紹介します。構成図は「draw.io」で作り、配布用にPDF化しています。
管理台帳は「Excel」で作成しています。
| 資料 | 使うツール | 配布の形 |
|---|---|---|
| 構成図 | draw.io | |
| 管理台帳 | Excel | Excelのまま取り込み |
| 共有・閲覧 | Manulog | 該当チームのみ公開 |
draw.ioは、四角と線を並べて図を描けるツールです。機器名をそろえた図を描いたら、配布用にPDFへ書き出しておくと、どの端末でも同じ見た目で開けます。
Excelは、前の章で挙げた11項目を列見出しにすれば、そのまま台帳になります。履歴は別シートに分けておくと、台帳本体がすっきりします。
Manulogで、必要なチームだけに公開する
作った構成図と台帳は、当社のQ-Toolsの「Manulog」にあるPDF・Officeインポート機能で取り込み、該当のチームのみに公開しています。
社外や関係のない部署には見えないため、前の章の「見る人」を絞る考え方をそのまま実現できます。
Officeインポート機能の特長は、Excelのすべての列を1枚の紙に印刷したような形で閲覧できることです。
列が多くて複雑な管理票でも、ズームしながらPCやスマホで快適に見られます。現場でスマホを片手に、台帳の細かい欄を確かめたいときに役立ちます。
現場のメンバーと一緒に見て、話して、確かめる
Manulogでは、これらの資料を現場にいるメンバーと共有し、Slackのように現場写真と合わせてチャットしながら閲覧できます。
「この機器はこれですか」と写真を送り、図や台帳の該当箇所を見ながらやり取りできます。
さらに、そのままManulogの中でビデオ通話もできます。分かりにくい現場のリアルタイム情報を共有しながら、共同作業を進められます。
障害時に遠隔の担当者と現場の担当者が、同じ図と台帳を見ながら話せる点は大きな強みです。
明日からの一手:今ある構成図や台帳を、PDFやExcelの形で1つ書き出し、共有したい人の範囲を決めてみてください。
よくある失敗と引き継ぎに生かす進め方
作って終わり・書きすぎ・載せすぎの失敗パターン
記録づくりで多いのは、次の3つです。
1つ目は「作って終わり」です。立派な図を作ったものの、機器を入れ替えても更新されず、半年後には現物と違う図になっています。
古い図は、無いより危険です。間違った前提で作業してしまうからです。更新のきっかけを表で決めたのは、これを防ぐためです。
2つ目は「書きすぎ」です。台帳の項目を欲張って増やすと、記入が面倒になり、空欄だらけになります。
まずは先の11項目で始め、必要になったら足してください。
3つ目は「載せすぎ」です。端末や配線の1本まで描いた図は、読めませんし、更新も続きません。1枚で見渡せる範囲に絞るのが基本です。
引き継ぎ時と障害時に、図→台帳→履歴の順でたどる流れ

記録が整っていれば、引き継ぎも障害対応も、同じ順番でたどれます。
- 図を見る:全体のつながりをつかみ、問題がありそうな場所の機器名を見つける
- 台帳を見る:その機器名で台帳を引き、設置場所・管理者・契約・保守窓口を確かめる
- 履歴を見る:直近の設定変更がなかったかを確かめ、あれば実施者に連絡する
引き継ぎでも、この順番で後任者と一緒に現場を回ります。図を見ながら現物を指さし、台帳の記載と合っているかを確かめます。
ずれがあれば、その場で直します。この作業そのものが、記録の最初の点検になります。
明日からの一手:今のネットワークで、「この図→台帳→履歴の順」を口で説明できるかを試してください。
説明に詰まったところが、記録の足りない部分です。
自社のネットワーク記録の整備チェックリストと、最初の1週間でやること
整備チェックリスト
自社のネットワーク記録の整備チェックリスト
- [ ] 回線から拠点までのつながりを、1枚の図で説明できる
- [ ] 図に載せる範囲と、読み手と、使う道具を決めた
- [ ] 機器名の表記を、図・台帳・機器のラベルでそろえた
- [ ] 台帳に、機器名・設置場所・管理者・契約・設定変更の履歴の欄を設けた
- [ ] 契約書や保守会社の連絡先の保管場所を、台帳から調べられる
- [ ] 更新のきっかけと担当を、一覧にできる
- [ ] 図と台帳の保管場所と、閲覧できる人・書き換える人を決めた
- [ ] 台帳にパスワードなどの認証情報が書かれていないことを確認した
- [ ] 社外に図を渡すときの範囲のルールを決めた
最初の1週間でやること

いきなり完成を目指さなくて構いません。1週間の進め方の例です。
- 1〜2日目:範囲・読み手・道具を決め、本社の機器を見て回り、名前をつけてラベルを貼る
- 3日目:回線からWi-Fiまでの、本社の図を手書きで描く
- 4日目:拠点の機器を確認し、全体図に加える
- 5日目:台帳の表を作り、わかる範囲で埋める。空欄は「未確認」と書いておく
- 6日目:保管場所と閲覧権限を決め、認証情報の保管場所を整理する
- 7日目:更新のきっかけと担当を表にして、関係者に共有する
空欄があっても、最初の記録があること自体が、「あの人しか分からない」状態からの大きな一歩です。
まずは1枚の図と1つの表から、始めてみてください。
























