想定読者
5〜15名ほどの少人数チームを率いる経営者・管理職の方です。12月の繁忙期や冬の流行期に急な欠勤や数日〜2週間ほどの欠員が出ても業務を止めたくない一方で、代役や連絡のルールまでは決めていない方を想定しています。
要点
- 欠員への備えは「全業務を守る」のではなく、誰が休んでも止めない最低限の業務を先に絞り込むことから始まります。
- 代役は「できそうな人」で決めず、業務ごとに主担当・代役・手順・権限をセットで決めておくと、当日迷いません。
- 連絡手段と権限の委譲を事前に決め、復帰後のフォローまで1サイクルで回すと、備えが一度きりで終わりません。
なぜ冬は欠員で業務が止まりやすいのか
少人数の会社では、1人が休むだけで「電話が取れない」「請求書が出せない」「現場の段取りが決まらない」といった形で、すぐに業務の流れが途切れます。
大きな会社なら他部署が吸収できる欠員も、10人前後のチームでは吸収先がありません。まず、冬に欠員が止まりやすくなる事情を整理します。
繁忙期と感染症の流行期が重なる12月前後の事情

毎年12月前後は、年末に向けた受注の集中、年内納品の調整、決算や年末調整に関わる経理作業、取引先への挨拶まわりなどが重なり、ふだんより業務量が増えます。
同じ時期は気温が下がり、体調を崩す人が出やすい季節でもあります。
さらに、家族の看病や学校・園の休みで急に出勤できなくなる人も出てきます。
業務が一番増える時期に、人が一番欠けやすい。この組み合わせが、冬の欠員対策を後回しにできない理由です。
なお、本記事では体調や健康についての助言はしません。「体調がすぐれない人が無理に出勤しなくても、業務が回る状態にしておく」という運営面の設計だけを扱います。
欠員が1人でも止まる業務の共通点

欠員で止まる業務には、次の3つのどれかが当てはまることがほとんどです。
- その人にしか分からない:取引先ごとの細かい条件、見積の掛け率、現場の鍵の場所など、頭の中にしかない情報があります。
- その人にしかできない:専用ソフトの操作や、資格・経験が必要な作業です。
- その人にしか権限がない:発注の承認、振込の実行、システムの管理者権限などです。
具体例を挙げます。受注対応を担当するAさんが休んだ日に、取引先から「納期を2日早められないか」という電話が入ったとします。
社内の誰も在庫と出荷枠の状況が分からず、返事ができません。これは「分からない」ケースです。経理のBさんが休んで月末の振込が止まる場合は、ネットバンキングの承認権限がBさん1人にあるため「権限がない」ケースです。
自社の業務がどれに当てはまるかを見ておくと、後の対策が立てやすくなります。
退職や異動の引き継ぎとは別に考える「数日〜2週間の短期欠員」
退職や異動の引き継ぎは、時間をかけてマニュアルを整え、知識を渡し切る前提の取り組みです。
一方、短期欠員は「明日から数日いない」ことがある日突然起こり、しかも本人は戻ってきます。必要なのは完全な引き継ぎではなく、「戻ってくるまでの間、最低限つなぐ」ための備えです。
そのため、分厚いマニュアルを作る必要はありません。1枚の手順メモと、一時的に任せる権限の取り決めがあれば足ります。
最初から完璧を目指さず、止まると困る業務から小さく決めていく進め方が現実的です。
休んでも止めない業務を洗い出す
備えの出発点は、全部を守ろうとせず、守る範囲を絞ることです。人手が減った状態で全業務を普段どおりに回そうとすると、代役が潰れます。
止めない業務を先に決めておけば、それ以外は堂々と後回しにできます。
全業務を書き出し「止まると困る度合い」と「待てる日数」で3段階に分ける
まず、チーム全員の業務を付箋や表計算ソフトに書き出します。各業務に、次の2つの問いを当ててください。
- 止まると誰がどれだけ困るか(取引先・社内・お金への影響)
- 何日までなら待てるか
この2つの答えを組み合わせて、業務を3つに分けます。
| 区分 | 目安 | 例 |
|---|---|---|
| 止めない業務 | 当日中に必要 | 受注の受付・出荷手配 |
| 遅らせてよい業務 | 数日なら待てる | 請求書の発行・見積作成 |
| 止めてよい業務 | 1〜2週間待てる | 資料整理・社内勉強会 |
区分の目安は会社ごとに変わります。たとえば請求書は、支払期日の直前なら「止めない業務」になります。
業務の性質だけでなく、その時期のカレンダーも合わせて判断してください。
止めない・遅らせてよい・止めてよいの線引きと、取引先への影響の見方
線引きで迷ったときは、取引先から見てどう映るかで考えます。取引先に直接影響が出るのは、問い合わせへの返答、納品、請求と入金、緊急時の窓口などです。
逆に、社内向けの業務は多くが「遅らせてよい」に入ります。
例として、従業員10名の設備工事会社を考えます。現場の安全に関わる段取りと、顧客からの緊急連絡の受付は「止めない業務」です。
見積書の作成は、顧客に「少し時間をいただきます」と伝えれば待ってもらえることが多いため「遅らせてよい業務」にします。
社内の写真整理や備品の棚卸しは「止めてよい業務」です。こうして決めておくと、欠員が出た朝に「今日はこの3つだけ守る」と一言で指示できます。
「遅らせてよい」と決めた業務は、取引先に一言添えておくと安心です。納期を延ばす場合の伝え方は、後ほどひな形を紹介します。
1日欠員・1週間欠員・複数人同時欠員の3つの想定で見直す

区分を決めたら、次の3つの想定で見直します。
- 1日だけ休む場合:代役が1日分をカバーすれば足ります。
- 1週間休む場合:「遅らせてよい」業務が詰まり始めます。どこで限界が来るかを確認します。
- 複数人が同時に休む場合:代役同士が重なっていないかを確認します。
特に3つ目が重要です。たとえば営業のCさんの代役が受注対応のAさんで、Aさんの代役もCさんだと、2人が同時に休んだ瞬間に両方の業務が止まります。
「お互いが代役」という組み合わせは、一見バランスよく見えて、同時欠員に弱い形です。表を作るときに、そこを必ず確認してください。
代役の決め方:業務ごとに主担当・代役・手順・権限をセットで決める
代役を「できそうな人に頼む」で済ませると、当日に誰もが遠慮して動けなくなります。業務ごとに、主担当・代役・手順・権限を事前にセットで決めておくのが鉄則です。
業務ごとに主担当と代役を1名ずつ置く表を作る
「止めない業務」と「遅らせてよい業務」について、次のような表を作ります。まずは10行程度で十分です。
| 業務 | 主担当 | 代役 | 頻度 |
|---|---|---|---|
| 受注の受付 | 佐藤さん | 鈴木さん | 毎日 |
| 出荷手配 | 鈴木さん | 高橋さん | 毎日 |
| 請求書の発行 | 田中さん | 佐藤さん | 月末・月初 |
| 振込の実行 | 田中さん | 経営者 | 月2回 |
| 現場の段取り | 高橋さん | 山本さん | 毎日 |
表のセルは短く書き、補足は表の外に置きます。代役を決めるときの基準は、「その業務に近い仕事をしている人」「時間に余裕がある人」「同じ日に重ならない人」の3つです。
職種が混在する会社では、営業の代役を経理に頼むのは無理があります。受注対応には営業事務の経験者を、経理には総務や経営者を、現場には近い工程の人を、というように、業務の近さで選んでください。
また、代役は1人に限る必要はありません。
ただし、「だれでもいい」は「だれも動かない」につながります。代役は必ず名前で決めておきましょう。
代役が動くための手順メモと権限の一時委譲

代役を決めただけでは、業務は動きません。次の2点が揃って、はじめて代役は動けます。
1つ目は、1枚の手順メモです。マニュアルのように網羅する必要はなく、「何を・どの順番で・どこにある情報を使って・誰に確認するか」を、A4で1枚にまとめます。
たとえば受注対応なら、受注メールの確認場所、在庫の確認方法、納期回答の目安、迷ったときの相談先の4点があれば十分です。
詳しいマニュアル作りは、別の機会に取り組むものとして、ここでは最低限のメモで足りるとします。
2つ目は、権限の一時委譲です。代役が動くには、システムの閲覧・入力権限、共有フォルダへのアクセス、金額の承認権限などが必要です。
たとえば「10万円以下の発注は代役の判断で進めてよい」「それを超える場合は経営者に確認する」といった線を、あらかじめ決めておきます。
決めておかないと、代役は「勝手にやってよいのか」と迷い、結局は主担当に連絡して休めなくなってしまいます。
なお、経理や勤怠など、重要な情報や金額に関わる権限の分け方は、会社の内部統制や契約にも関わります。
判断に迷う場合は、税理士や社会保険労務士などの専門家に確認してください。
手順メモを書き、置き場所を決めたあとに「それをどう残し、育てていくか」で迷う方もいると思います。
そのための道具の一例として、Q-Toolsアプリの「Manulog(マニュログ)」があります。
Manulogでできることは、次の3つです。
- 仕事の属人化を防げます。「その人にしか分からない」状態を減らす助けになります。
- 担当者が休んでも困らないように、マニュアルを充実させていけます。手順メモ1枚から始めて、少しずつ厚みを足していく使い方ができます。
- いざというときは、本人にチャットで聞けます。メモを読んでも分からない点が残ったときの、最後の確認手段になります。
Manulogの機能や使い方の詳細は、次のリンクから確認できます。
道具を入れることが目的ではありません。大切なのは、手順メモを用意し、連絡手段を決めておくという、ここまでの流れが実際に回ることです。
自社の規模や使い方に合えば、その土台を支える手段の1つとして検討してみてください。
連絡と権限の委譲ルールを決める
代役を決めても、欠勤の連絡が遅れたり、誰にも届かなかったりすれば、朝の段取りが崩れます。連絡の流れは、ルールとして文章にしておきます。
欠勤連絡の手段・締め切り時刻・連絡先を決める
決めておくのは、次の3点です。
- 手段:電話、チャット、メールのどれを使うか。急な欠勤は、確実に気づける手段を1つに絞ります。
- 締め切り時刻:始業の何分前までに連絡するか。代役への指示に間に合う時刻にします。
- 連絡先:誰に連絡するか。直属の上司が不在の場合の連絡先も決めます。
例として、「始業の30分前までに、チャットのグループと上司の携帯電話の両方に連絡する」といった形です。
具体的な時刻はそれぞれの会社の事情に合わせて決めてください。体調がすぐれないときに長い説明をしなくてよいように、「休みます。急ぎの案件は〇〇です」の一言で足りるようにしておくと、連絡のハードルも下がります。
取引先への伝え方のひな形
取引先への連絡も、ひな形を用意しておくと慌てません。たとえば次のような文面です。
「いつもお世話になっております。担当の〇〇が本日より数日不在にしております。その間は△△が対応いたします。お急ぎの場合は△△までご連絡ください。〇〇の復帰は□日の予定です。」
個人の体調や理由は伝えず、「不在」と「誰が対応するか」「いつ戻るか」の3点だけを書きます。理由まで書く必要はありませんし、書かないほうが本人にもやさしい伝え方です。
遅らせてよい業務については、「確認に少しお時間をいただきます」と添えておくと、待ってもらいやすくなります。
代役の決裁範囲を事前に共有する

権限の一時委譲は、本人と代役だけでなく、チーム全体に共有しておきます。「今週はAさんの受注対応をBさんが代わりに行います。10万円以下の発注はBさんの判断で進めます」と、メンバー全員に知らせておくだけで、取引先や社内からの問い合わせが適切な人に届きます。
口頭だけで済ませず、表やチャットの固定メッセージとして残しておくと、後から確認できます。
代役に負荷を偏らせない工夫と、ふだんからの小さな練習
負荷が偏らないようにする調整
欠員が出ると、どうしても「頼みやすい人」「頼れる人」に仕事が集まります。そのままにしておくと、代役を務めた人が次の欠員候補になりかねません。
次の3つを心がけてください。
- 1人の代役が受け持つ業務は、止めない業務のうち1〜2個までにとどめます。
- 代役の本来の業務のうち、遅らせてよいものを先に仕分けて、後回しにする許可を出します。
- 欠員が1週間を超えそうなときは、代役の担当を見直して、交代制にします。
経営者や管理職は、代役に任せきりにせず、「あなたの本来の仕事はここを遅らせていい」と明確に伝える役割を担います。
この一言があるだけで、代役の心理的な負担は大きく変わります。
ふだんから代役を経験させる小さな練習

代役が初めてその業務に触れるのが欠員当日、という状態は避けたいところです。ふだんから、小さく練習する機会をつくります。
- 月に1回、主担当が休みを取る日に、代役が実際に1つの業務を担当します。
- 主担当が手順メモを使って代役に説明し、メモの分かりにくい箇所を直します。
- 繁忙期に入る前に、半日だけでも代役が主担当の横で作業を見る時間をとります。
休暇を取る日を練習の機会にすれば、特別な時間を割かずに済みます。手順メモも、実際に使ってみて初めて、足りない情報が見つかります。
復帰後のフォローまで1サイクルで回す
欠員への備えは、休んだ人が戻ってきて、はじめて1周します。復帰後のフォローが抜けると、次の欠員のときに同じ混乱が起こります。
復帰当日にやること
復帰当日は、次の4つを意識します。
- 引き継ぎ内容の共有:休んでいる間に何が起きたか、どの案件がどこまで進んだかを、代役と本人が短時間で確認します。10〜15分程度で十分です。
- 溜まった業務の優先順位づけ:復帰した人は、メールや依頼が溜まっています。「今日やること・今週中にやること・待ってもらうこと」に仕分けて、一気に取り戻そうとさせません。
- 無理をさせない声かけ:「おかえりなさい。まずは無理のない範囲で」と声をかけ、最初の数日は業務量を調整します。
- 代役を務めた人への感謝と振り返り:代役への感謝は、言葉にして伝えます。あわせて、手順メモで分かりにくかった点、権限が足りなかった点を聞き取ります。
振り返りは、反省会にしないことが大切です。「次に同じことが起きたらどこを直すか」だけを5分ほど話し合い、手順メモや表に反映します。
ここまでやって1サイクルです。
勤怠や休暇の扱いについて
欠勤や休暇の扱い、休業中の賃金の考え方などは、就業規則や労務管理に関わる分野です。本記事では運営面の備えに絞っており、法的な扱いには踏み込みません。
判断に迷う場合は、社会保険労務士などの専門家に確認してください。
欠員が出る前の点検と、見直しの頻度
備えは、作って終わりでは古くなります。人の入れ替わりや業務の変化で、表や手順メモの中身はすぐにずれていきます。
ここまでの内容を、点検に使えるチェックリストにまとめました。
欠員が出る前に確認しておく項目チェックリスト
- [ ] 全業務を書き出し、止めない・遅らせてよい・止めてよいの3つに分けられている
- [ ] 止めない業務のすべてに、主担当と代役が名前で決まっている
- [ ] お互いが代役になっている組み合わせがなく、同時欠員でも回ることを確認した
- [ ] 止めない業務ごとに、A4で1枚の手順メモを用意した
- [ ] 代役が使うシステムや共有フォルダの権限を、事前に付与している
- [ ] 代役が自分の判断で進めてよい金額や範囲を決め、全員に共有した
- [ ] 欠勤連絡の手段・締め切り時刻・連絡先を決め、全員が知っている
- [ ] 取引先への不在連絡のひな形を用意した
- [ ] 復帰後の共有と振り返りの手順を決めた
- [ ] 代役の経験を積む練習の機会を、年間の予定に入れた
見直しの頻度は、年に数回が目安です。たとえば、繁忙期に入る前の秋、年度の切り替わりの時期、人の入れ替わりがあったときの3つのタイミングで、表と手順メモを見直します。
全部を一度に点検する必要はなく、「担当が変わった業務だけ確認する」でも十分です。
最初の1週間でできる小さな一歩
読み終えたその日から、次の順で進めてみてください。
- 1日目:チーム全員の業務を、付箋や表計算ソフトに書き出します。
- 2〜3日目:書き出した業務を、3つの区分に分けます。迷う業務は、保留でかまいません。
- 4日目:止めない業務に、主担当と代役を仮で決めます。
- 5日目:止めない業務のうち、最も重要な1つについて、手順メモを1枚書きます。
- 週末まで:欠勤連絡のルール(手段・時刻・連絡先)を決めて、全員に知らせます。
この5つが済めば、いちばん大きな穴はすでにふさがっています。残りは、月に1つずつ追加していく進め方で問題ありません。
まとめ:全員が替えのきく状態を目指さず、止まらない仕組みを少しずつ育てる
欠員への備えは、全員が何でもできる状態を目指すものではありません。少人数のチームでそれを目指すと、日常業務が回らなくなります。
大切なのは、次の3つです。
- 全業務を守ろうとせず、休んでも止めない最低限の業務を先に決めること
- 業務ごとに主担当・代役・手順・権限をセットで決めておくこと
- 連絡と権限のルールを事前に決め、復帰後のフォローまで1サイクルで回すこと
最初から完璧な仕組みは要りません。止めない業務を1つ決め、代役を1人決め、手順メモを1枚書く。
この小さな一歩が、冬の繁忙期に急な欠員が出たときの安心につながります。そして、欠員が出るたびに表と手順メモを直していけば、備えは少しずつ育っていきます。























