ネットが消費者のツールとなっていった90年代後半から、企業は様々な考え方でネットの顧客を自社の戦略へどう取り込んでいくかに振り回されてきたといえます。
最初はクリック&モルタルから始まった
私がネットビジネスに取り組み始めたのは、1997〜1998年の頃でした。
その頃地域の家電専門店を運営していた私は、まず自店のホームページを開設するところから始まり、メルマガの発行、ソニーのサイバーコードというのを使って、新聞折込チラシと連動したネットクーポンを発行したのもこの頃でした。メルマガの印刷とチラシを持ってきたら、自店のポイントを倍付けするなんてこともやっておりました。
そして、2000年からはソニーの「e-SonyShop」というプロジェクトに取り組み、地域の家電店に来店するお客様がリアルとネットをスムーズに行き来できるようにするというテーマに取り組みました。
この頃提唱されていた考え方が「クリック&モルタル」でした。
インターネット上のオンライン店舗(クリック)と現実に存在する店舗・物流システム(モルタル)を組み合わせ、相乗効果を図るビジネス手法のことです。
2000年前半には楽天へも出展しており、ガラケーのサイトからご注文いただいた100インチクラスのリアプロを店頭へ引き取りに来ていただくといったことも度々ありました。あの頃は5万人を超えるメルマガ会員に面白いように販促施策が訴求できたことを記憶しています。
O2OからOMOへ
さて、昔話はこのくらいにしておくとして、その後この手法は「O2O(Online to Offline)」と名前を変えてマーケティング概念として定着してきました。

しかし、この「クリック&モルタル」や「O2O」というのは、ネットとリアルを分けて考える手法でした。それぞれを2つに分けて考えることにより、ネット上から店舗へとお客様に購入の行動を移してもらえるようにするといった手法だったからです。
これらの手法の特徴は、シンプルに言えばサイトで発行されたクーポンを店頭へ持ってきた回数をカウントするだけなので、特にITスキルは求められませんでした。
発展した手法に「オムニチャネル」というのがありますが、こちらはお客様を実店舗へ誘導するのではなく、店舗でもネットでもどちらで購入していただいても同じプロフィットを得られ、同レベルのサービスを提供できる仕組みを作ることでした。
そして、顧客行動をネットとリアルで分断せず、リアルの行動も同じくデータ化し、ユーザーがサービスや商品に触れることで得られる体験や経験を主軸として顧客体験価値を高めていく手法を「OMO(Online Merges with Offline)」といいます。
OMOの仕組みづくり
OMO の手法を実現するためには、基幹システムからウェブシステム、在庫・発注管理などの店舗システム、決済システムまでをすべて連続的につなぎ合わせることが必要です。
たとえば、ある有名なアパレルブランドは店舗とオンラインショップの顧客データを一元化し、基幹システムとの連携や WMS との在庫連携、ウェブ投稿の自動化、アプリ連携などを実施しました。
OMO が少し先を行っている中国では、スマートフォンは決済手段というだけではなく、ユーザーの買い物、食事、観光などの行動がデータ化され、IDで紐づけされています。

ですから、ショールームや店頭、スーパー、コンビニなどである商品のレビュー情報などをQRコードで読み込んで閲覧したといった情報や接客した情報が蓄積され、そのユーザーがいつ、どんな商品に興味を持ったか、実際に手にとって商品を体験したか、実際に購入したかなどをデータ化することができるようになっています。
そのため、オンラインでもオフラインでも、店が自分の行動を先回りしてくれるといった体験が手に入りつつあります。
私たち消費者にとっては、常にデータを吸い取られているという気持ち悪い部分もあるかもしれません。
日本企業が本気で取り組めば、成熟したセオリーでセキュリティの厳重さや安全性の配慮が行き届いた施策が実現されるのではないかと思います。
そして、自動販売機を大きくしたイメージの無人コンビニや無人スーパーなどが、いずれ増えてくることでしょう。
OMO実現を遮るもの

たとえば、私は3年ほど前から体調をデジタル化することに取り組んでおり、Fitbit(トラッカー)とAria2(スマート体重計)からは体重の推移、歩数、運動量の推移、心拍ゾーンの測定、睡眠の質や睡眠中のSpO2(血中酸素飽和度)なんかを常にデータ化しています。
最新機種ではこの他に、ストレスに対する身体の反応計測までできるそうで、最新テクノロジーで体がデータ化されていることが実感できます。
しかし、こんな便利なツールにも一つだけ障壁があります。
それは食事や飲み物などの栄養摂取状況をスキャンする機能です。現在、他のサービスも含め、基本的には自分が食事後に検索して入力しないと、摂取したカロリーや糖質やタンパク質などの摂取状況は分かりません。
このようにユーザーが自らプッシュもしくはフリクションしなければならない状況では、真の OMO は実現できません。すべてをユーザーが障壁を感じることなく、データ化がバックグラウンドで行われることが理想といえます。いつかこの課題も解決へと向かう日が来ることでしょう。
例として IoT機器 を挙げましたが、OMO を実現するためには、これと同様にユーザー体験を阻害しているものが無いか、どのようにしたらそれを取り除けるのか、それは人の手が必要なのか、それとも機器やソフトウェアで実現できるのかなど、消費者が心地よい体験をシームレスに行える環境を整えることが重要です。

QRコードが読みにくいとか、そもそも何で読めばいいか分からないとか、自分のスマートフォンではどうやるのかなど、ユーザーインサイト に迫ると見えてくるものがたくさんあります。
企業側がただ、「新しいテクノロジーを取り込みました」という自己都合を要求しているようでは、ユーザーの便益を起点としたサービス体験は生まれないと感じています。
消費者はトータルコストを超越する価値を求めている
たとえば、いつも買っているコーヒー豆を購入したいと思ったとき、今ではほとんどの場合Amazonをクリックしています。実店舗でコーヒー豆を買う機会があるとすれば、スタバやコーヒースタンドへ寄った際、普段は飲まないが飲んでみたいと思える豆に出会ったときです。
しかし、同じコーヒー豆を購入するのであれば、まず店頭へ出向くことは「無駄」と考えることでしょう。
このように、消費者は商品を購入する代金だけではなく、そこへ到達するまでの手間までをコストと考えているのです。いわゆるトータルコスト(TCO)です。

別の例でいえば、デジカメを購入しようと考えているお客様は、デジカメ本体以外にSDメモリーカードの購入や購入後の電池の充電、さらに写真撮影に行きたい場所への交通費や手間までをすべてコストと考えていると思ってください。
目の前のお客様のご予算は商品を購入する代金のみではないということです。お客様から高確率で買っていただける販売員は、直感的にこれを理解しているといえます。
お客様にとって、これが価格以上に自分が撮影したいと考えている印象的な写真が撮影できるカメラとあれば、自分のニーズ以上の便益が得られると考え、それを大きなコストとは考えません。”新しいわくわくする体験を得られるツール”と捉えるのです。

つまり、消費者は自分がコストだと思えるものを超越する、新しい価値を体験することを求めているのです。
ネットではなくショッピングモールへ出かけるのも、クリック以外から得られる他の体験価値を求めているからです。
以前、別の記事で スイッチングコスト を低くする体験について書きましたが、そのユーザーにしか見えない コンフォートゾーン を具現化してあげることがこれらのコツといえます。
消費者は一人ひとり個別の壁を持ちます。その壁を超えなければ、真の顧客満足を得ることはできません。
SNSにより人がそこから集約された情報を受け取れるようになったため、人の行動はまるで AI のように定番化してきていると言う方もいますが、それはあくまでも バズキーワード に踊らされた表層的な行動であるといえます。
ここで基本に帰って、お客様が営業担当者を名指しするのはなぜでしょうか?
それは、その担当者と話せばご自分に合った体験が得られるからです。この体験を会社の誰もが、すべての顧客に提供できるようになればいいと思いませんか?
それを実現するために、ネットの世界では DMP や MA などのツールの導入や活用が進んでいます。
しかし、リアルな顧客行動をデータ化するといった側面は、収集までして止まっている感が歪めません。
この大量の行動データから 顧客体験 をどう作っていくのか、これがこれからの課題であると考えています。
Googleニュースアプリで最新情報をゲット!
Quad Competenceの「Business TIPs」はGoogleニュースからご覧いただけます。
Googleニュースで当サイトのフォローをしていただければ、最新情報のチェックが可能です。


Googleニュース又はGoogleニュースアプリ(Android/iOS)の上部検索窓から「Quad Competence」と検索してフォローいただくと、最新ニュースが配信されます(左上に表示)。Googleアカウントをお持ちの方は、ぜひよろしくお願いします!