「世界の企業が取り組むDXの95%は失敗に終わっている」
「デジタル・イノベーション・カンファレンス2019」スイスIMDマイケル・ウェイド教授
このような衝撃的な事実があります。
ここだけを見るとネガティブな印象を受けますが、そもそも欧米企業には、計画通りにいかないのがデフォルト。
たとえ失敗に終わっても、その際に得たノウハウや経験は会社の知財として残るため、それを次にどう活かすかということが大切であるという考え方があるようです。
また、こんなデータもあります。
MITの調査によれば、欧米有力企業の経営委員会が業務のデジタル化検討に割く時間は約28%であるのに対して、日本企業が経営会議で業務のデジタル化検討に割く時間は全企業規模平均でたったの5.5%である。
野村総合研究所 2018年「第264回メディアフォーラム 日本企業のデジタル化は進んだか」より
日本がデジタル化に前向きな投資ができていないのは、日本では99.7%が中小企業、85.1%が小規模企業であることや、最初から成果に100点満点を求めてしまうという国民的な気質があることに起因していると言われています。
これがそのまま、国際的に見た労働生産性の低さというネガティブな事実に関連してきていると言えるでしょう。
そのような中でも、新型コロナ流行の影響もあってか、WEBサイトの構築や改善、営業支援システム、顧客管理システムなど、顧客対応・販売支援に関するデジタル化はデジタル化投資全体の約38%を占めているそうです。
(2021年独立行政法人中小企業基盤整備機構のデータより)
そこで今回は、BtoB企業の事例を中心に、顧客の購買プロセスのデータ化や営業のデジタル化についての記事を書きます。
この記事のインデックス
購買プロセスの変化と顧客体験の重要性
しかし、昨今企業や個人の購買プロセスにおける意思決定基準は変わってきています。
グローバル化やIT化が進み、さらにインターネットが普及したことで、以前よりも消費者や企業が選定する商品は多様化し、短絡的に意思決定することも少なくなってきました。
選択肢が増えればそれを選ぶ側にもそれ相応の情報収集が必要になりますし、収集手段も多様化しています。
そのため、いま重要視されていることは、「顧客に パーソナライズ されたより良い顧客体験」だと言われています。
より良い顧客体験を作り上げるためには、まず顧客を知ることからスタートしなければなりません。
2010年代の購買プロセスは マス広告 が中心でした。
そのため、顧客はマス広告で気になった商品の資料やカタログを取り寄せ、それを元に営業へ問い合わせることで詳しい接客を受け、そこからクロージングすることができました。購入後は困ったことがあれば、営業もしくはカスタマーサポートへご連絡をいただくことで、解決に当たるというプロセスでした。
代わって、現在の購買プロセスは入り口がネット広告などのデジタル広告中心となってきました。
そのうえ、デジタル広告の先には検討に十分な情報があり、企業のWebサイトやSNSには購入した顧客の口コミ情報が掲載されています。
そのため顧客は、ある程度自分で調査・評価・比較を行うことができるようになり、さらに興味があればもっと多くの情報を得るためにウェビナーへ参加したり、デモを見に行ったりすることができるようになりました。
つまり、顧客は購入する前から既に多くの情報を得ているということです。
そのため、営業活動には以前よりも一歩進んだ情報が必要となり、より顧客に寄り添った(パーソナライズされた)提案内容が必要になってきました。
さらに企業は納品後の定着化や活用のフォローアップを実施することで顧客の LTV を高め、それらのケーススタディを元に他の顧客へもビジネスを拡大していくといった手法を取るようになってきました。
LTVが高まれば顧客は長期間継続的に企業へ利益をもたらしてくれるようになるわけですから、「サブスクリプションサービス」が多くなってきた背景もここにあります。
顧客管理システム(CRM)の役割とは?
CRMの歴史
顧客管理システム(CRM)が使われるようになってきたのは1990年代からですが、その根幹となる顧客管理の必要性は1950年代あたりからあったと言われています。
顧客満足度を向上させることや長期的な関係性を構築することは昔から重要視されていましたが、それを実現するための手段は顧客台帳などの紙が中心でした。
80年代に入ると、ビジネスの世界においてコンピュータの利用が始まり、データベースを構築してそのデータを分析することでキャンペーンが実施できるようになりました。
その後、90年代にはコンピュータやソフトウェアは進化し、属性情報に加えて応対履歴や購買履歴などのより細かなデータを複合的に活用することが可能になりました。
CRM導入のメリット
企業がCRMを導入すると、一人ひとりの個客に関するデータをプラットフォームに集約し管理することができるようになります。
逆に言えば、未着手の企業では顧客データはあちらこちらに散らばっており、顧客は属人化しているのではないでしょうか?
このような状況下では「顧客に パーソナライズ されたより良い顧客体験」に必要な情報が足らず、やがて顧客が御社の営業にメリットを感じられなくなってしまいます。
それでも能力の高い営業は顧客を惹きつけて離さないと思います。なぜなら、そこには顧客一人ひとりに最適化された体験があるからです。
これを属人化せず、全社的な営業力の向上に繋げていくのがCRMです。
顧客管理システム(CRM)があれば、誰に、どんなタイミングで、どのような情報を提供したことが購買行動に繋がったのかという知見を蓄積し、シェアすることができるため、そこから「何が上手くいったのか、何が上手くいかなかったのか」という考察も得やすくなります。
その考察をもとに営業活動を見直すことができれば、これは間違いなく経営の大きな力となることでしょう。
CRMで管理できること
顧客管理(CRM)は、自社と顧客との接点を記録するためのシステムであり、顧客の基本情報をベースとして様々な情報を紐付けて活用するものです。
CRMで管理できる項目には以下のようなものがあります。
- 顧客属性情報(名前、住所、電話番号、メールアドレス等)
- 顧客とのコンタクト履歴(いつ、どこで、誰がどんな情報を提供したか)
- 顧客の購買履歴(どんなカテゴリーのどんな商品を購入したか)
- 案件の管理・進捗履歴(弊社のツールの場合)
- サポート対応履歴
最後のサポート履歴のみがCRMとしてクローズアップされ、「CRMはカスタマーセンターのツール」と考えている方が多いのですが、実際には前述の通り、顧客の購買プロセスからすべての情報を蓄積していくのがCRMです。
そしてここで蓄積した情報を社内で共有し、顧客情報に基づいた対応や施策を実施し、顧客満足度を向上していくのがCRMの活用方法です。
そのようにすることで、企業視点での営業・マーケティング・カスタマーサポート活動から、顧客視点によるアプローチへと変化させていくことが重要な経営戦略であると言えます。
CRM・SFA・MAの比較
CRMはとても便利なシステムですが、これだけで業績アップに繋がるかというと、そんなに甘くないことは皆さんの方がよくお分かりかと思います。
まず、せっかくCRMを使いこなすことができたとしても、営業が適切なタイミングで顧客へアクセスしたり、適切なタイミングでクロージングすることができないと業績アップには繋がりません。
CRM&SFAで管理できること
そこで最近多くの企業が取り入れているシステムが「SFA」です。
SFAは営業活動に視点を置いて開発されたシステムです。
営業が個々に属人化してきたプロセスを可視化することで、マネージャーを始めとして他の部門までもが売上までのプロセスを把握できるようにするものです。
SFAで管理できる項目には以下のようなものがあります。
- 企業属性管理(会社名、組織構造、部門名、役職等)
- 営業活動管理(活動記録、ToDo、スケジュール、ファイル共有)
- 業績管理(レポート、売上・商談・活動の可視化)
CRMのみではデータの活用は属人的に行われてしまう恐れがあるため、SFAでそれを能動的、且つ戦略的に活用できるようになります。
最近ではこの分け目が曖昧になっており、両方の機能を持つツールが増えたことで、機能も活用幅も広くなってきています。それ故、自社が使い切れない機能まで学習しないと使いこなせないツールも増えています。
マーケティングオートメーション(MA)とは?
マーケティングオートメーション(MA)は、マーケティング活動に視点を置いているソリューションです。
昨今、営業が把握している顧客情報は顕在化した情報が多く、その手前の潜在顧客にアプローチしていくためには、マーケティングを実施していくことが求められています。
しかし、マーケティングの段階で抱えているリード(見込顧客)はニーズが顕在化していないため、囲い込み続けることが難しくなっています。
そこでアプローチしきれないリードに対しても個々にあわせたシナリオを設計して自動化することで、見込顧客の興味にあわせた情報を届けられるようにしていくツールがマーケティングオートメーション(MA)です。
その結果、営業が接触する前の段階で顧客が自社や自社商材への興味度合いを高めたり、検討を進めたりすることが可能となります。
また、これまで収集することが難しかった自社ウェブサイトへのアクセスやメールへの反応を個人別・企業別に計測し分析できるため、CRMのコンタクト履歴とMAで残すことができるインターネット上での行動履歴を組み合わせ、顧客理解をより深められるようになります。
MAで管理できる項目には以下のようなものがあります。
- 見込顧客の獲得(リードジェネレーション)
- 見込顧客の育成(リードナーチャリング)
- ABM「アカウント・ベースド・マーケティング」
(顧客個人と所属企業の評価を組み合わせて分析すること) - マーケティング施策、収益貢献分析
MAツールは登録された見込み顧客のメールアドレスと Cookie を紐づけて行動分析を行います。
Cookieとは、あるユーザーがあるサイト(Webページ)を訪れた証拠のようなものです。Webサーバーがクライアントコンピュータに預けておく小さなファイルのことを言います。
具体的には、あるユーザーがPCやスマートフォンのブラウザでサイトを訪れた際に一時的に記録データを残します。
よく、2回目にアクセスしたサイトにログインの情報が残っているのはCookieの機能によるものです。あなたがサイトを訪れた印に、自分の御朱印帳に御朱印を残していくようなイメージです。
このCookieを顧客に紐付けるためにはまずメルマガを購読してもらい、そのメルマガのリンクを一度クリックしてもらう必要があります。
そのため、MAツールにはメール配信の機能が統合されていることが多いです。
こういったCookieは「1st Party Cookie」と呼ばれ、そのWebサイト自体がそこへ訪れるユーザーへサービスを提供するためのものです。よくバナー広告やリターゲティング広告などで使われる「3rd Party Cookie」とは異なるものですので、改正後の個人情報保護法でもブロックされることはありません。
Cookieそのものに「1st」「3rd」の区別があるわけではないのですが、どこのドメインから発行したCookieなのかで区別されます。つまり、自社ドメインから発行されたものは「1st」になるという仕組みです。複数の企業ドメイン、つまり、複数のサイトを通じて横断的にCookieを使うと「3rd Party Cookie」とみなされ、規制対象となります。
セールスDXを実現するには?
このように顧客管理のデジタル化を進めた後、いよいよ組織改革にメスを入れます。
次の図は営業組織のデジタル化(セールスDX)を推進するうえでの、全体プロセスを図式化したものです。
セールスDXによる営業プロセスの変化
多くのBtoB企業における顧客の購買プロセスを考えると、最初に何らかのアプローチによるアポイント活動があり、その後で商談や展示会、製品デモ等があり、一度では決まらないために繰り返し提案を行っていきます。
その後、商談でクロージングに至り、何か不具合があればそこでアフターサポートが発生します。
この一連のプロセスを主に営業組織が行っているのが現状かと思います。
これを図の右側のように、分業して取り組んでいくのがセールスDXです。
最初の段階では潜在的な顧客も多いため、まずはマーケティング部門が見込みの掘り起こしを担当します。
反応があった顧客へは内勤専門の「インサイドセールス」部門が担当します。
そしてそこから一定の条件を経た顧客を従来の営業(フィールドセールス)へ引き渡します。
フィールドセールスはその後のクロージングまでを行った後、「カスタマーサクセス」部門へ引き渡し、顧客企業での自社製品の定着化を託します。
BtoBにおけるターゲット顧客の購買プロセス
以下はBtoBにおけるターゲット顧客が自社の課題を認知し、情報収集・比較、社内検討、契約に至るまでを図にしたものです。こういったものを「カスタマージャーニー マップ」と言います。
それぞれの行動段階で顧客と接点を作るポイントを「タッチポイント」としています。
次の行はそれぞれの段階で顧客がどのような思考を持ち、購買のモチベーションがどのように変化していくかを示しています。最後の行では顧客が次の行動に移るためための動機づけを行うための主な施策を示しています。
あくまでも当社の顧客の仮説なので、これは業界や顧客特性によっても変わってくると思います。
組織編成と分業のイメージ
このようなプロセスを実現するためには、次のような組織編成と分業を実施すると効果的です。
まとめとなりますが、まず、案件確度が1〜2の需要創造段階はマーケティングが担当し、案件確度が3〜4の見込み客の育成や案件発掘段階はインサイドセールスが担当。
そこからフィールドセールスが案件確度を4〜5まで高めることでクロージングしていきます。
購買確定後、役割はカスタマーサクセスへ渡され、ここで活用支援や契約継続、アップセルやクロスセルへと繋げていきます。
評価基準とキャリアパス
また、組織を変更すれば各々のモチベーション維持や評価が重要となってきます。
次のように役割ごとに何を KPI とするかを明確化することで、各々のモチベーションを保つことができます。
合わせて、インサイドセールスの次はフィールドセールスへ、フィールドセールスの次はマーケティングへなど、キャリアパスを明確化し、将来のキャリアプランを明確にしておくと良いでしょう。
従って、企業としてはこの前段のマーケティング、インサイドセールスの組織化や人員増加、後半のフィールドセールス、カスタマーサクセスの明確な役割分担を進めていく必要があります。
デジタルデータの活用方法について、詳しくはこちらの記事で書いています。
全社員が持つ名刺をデータ化し、それを戦略的に使用する方法について書いた記事です。
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