想定読者
病院・工場・商業施設などでPHS(簡易型携帯電話、かつて「ピッチ」とも呼ばれました)からの移行や、施設内通信の見直しを検討している中小企業の経営者、総務部門・情報システム部門のご担当者を想定しています。
2023年7月公開の旧記事をお読みいただいた方にも、2026年10月時点で何が変わったのか一目で分かるようにまとめました。
要点
- 2023年11月10日の総務省令改正(令和5年総務省令第78号)でF3(1909.1MHz)・F21(10MHz幅)が正式に追加され、旧記事で「今後の予定」としていた制度改正はすでに実現済みの制度になっています
- sXGP事業の提供元が2025年4月にビー・ビー・バックボーンからソフトバンクへ承継され、対応端末もiPhone・iPadに加えて京セラ・シャープの法人向け端末まで広がりました
- 上空利用(ドローン)や携帯電話網とのローミングといった新しい使い方、Wi-Fi 7の国内解禁(2023年12月)、ローカル5Gの共同利用制度化など、比較対象となる技術の最新動向も更新しています
この記事について(2023年版からの改訂点)とPHSからsXGPへの背景
なぜ今、改訂するのか・主な変更点サマリー

本記事は、2023年7月に公開した「プライベートLTE『sXGP』のおすすめ」の改訂版です。あの記事では「今後の動向」として制度改正の予定を紹介していましたが、2026年10月時点ではその多くがすでに実現済みの事実になっています。主な変更点は次のとおりです。
まず、2023年11月10日の総務省令改正により、新しい周波数チャネル(F3・F21)の追加が正式に完了しました。
次に、sXGPサービスの提供元が2025年4月にビー・ビー・バックボーンからソフトバンクへ承継され、対応端末のラインアップも大きく広がりました。
さらに、2024年末にはドローンなどでの上空利用や携帯電話網とのローミングが制度上の支障なしと判断され、比較対象となるWi-Fi 7やローカル5Gの制度も動いています。以降、章ごとに具体的な内容を更新していきます。
医療・工場現場での電波干渉問題とPHSの限界
PHSが業務用通信手段として長く選ばれてきた理由は、主に次の2点です。
- 他の電波を発する機器との干渉が少ないこと
- 建物内でも電波が届きやすく、通話品質が高いこと
特に医療機関での利用が顕著でした。これは、Wi-Fiが多用する2.4GHz帯との電波干渉を避けるためです。電波干渉は、医療用テレメーター(生体情報を無線で送る機器)やペースメーカーなどにとって危険な要因になり得ます。

そのため、電波干渉を抑えつつ高速なWi-Fiを実現する手段として5GHz帯も使われますが、5GHz帯は気象レーダーや航空レーダーとの共用の都合で利用可能なチャネルが限られ、遮蔽物にも弱いという弱点があります。
こうした事情から、電波干渉が少なく施設内で確実に通信できる自前のPHSで音声通話を行い、電子カルテなどの情報のやり取りはWi-Fiや有線接続のPCカートで行う、という役割分担が長らく定着していました。
一方で、公衆向けPHSサービスは2021年1月31日に終了し、ワイモバイルの法人向け「PHSテレメタリングプラン」も2023年3月31日に終了しました(出典:ケータイWatch「PHSサービス終了」)。
これにより、自営PHS(施設専用のPHS)を使い続けている施設も、将来的な機器更新や通信方式の見直しを迫られる状況になっています。
sXGPの仕組みとメリット(基本は変わらない部分)
TD-LTE方式と広域カバーの仕組み

sXGP(shared eXtended Global Platform)は、PHSと同じ1.9GHz帯を使う通信規格で、TD-LTE(時分割複信のLTE方式)互換の技術を採用しています。「プライベートLTE」や自営網(企業専用のネットワーク)として構築でき、対応スマートフォンへのSIMカード提供も可能です。
TD-LTE方式は、5MHzの周波数帯域を上りと下りで時間を分けて共有する仕組みです。一般的な4G-LTEが上りと下りで別の周波数帯域を使うFD-LTE方式を採っているのに対し、sXGPは帯域幅が狭く上下を共有するため、速度面では4G-LTEに劣ります。
5MHz幅の理論値については「下り約12〜14Mbps、上り約4Mbps程度」とする情報もありますが、公的な一次資料での確認はできておらず、出典によって数値に幅がある点にご留意ください。通話や軽量なデータ通信を主な用途とする場合には十分な速度といえます。



sXGPは一つのアクセスポイントで広い範囲をカバーしやすい特性も持っています。電波は基本的に直進し、障害物がない場合は距離とともに弱まります。
金属は電波を反射し、ガラスや木は電波を透過させるなど、素材によって挙動が異なります。
周波数の高低も電波の届き方に影響します。
高い周波数は遮蔽物に敏感で減衰しやすく、低い周波数は遮蔽物があっても遠くまで届きやすい傾向があります。
sXGPが使う1.9GHz帯は、Wi-Fiより電波干渉が少なく、広い施設や機器が密集する工場でも比較的安定した通信を提供しやすいとされています。
基地局1台あたりの接続台数は製品によって差があります。
例えばパナソニック システムソリューションズ ジャパンの製品は1基地局あたり最大32台の同時接続に対応すると公表していますが(出典:BUSINESS NETWORK「現場マルチネットワークサービス」)、これは規格そのものの上限値ではなくメーカー・製品ごとの仕様である点に注意してください。


途切れにくいハンドオーバーとセキュリティ
sXGPは移動中でも通話やデータ通信が途切れにくい特性を持っています。
これは「ハンドオーバー」と呼ばれる、端末が異なるセルエリアに移動する際に基地局間で通信を自動的に引き継ぐ技術によるものです。
Wi-Fiのハンドオーバーは端末主導で行われるため、切り替え時に通話やデータ通信が途切れやすい一方、sXGPやPHSは端末が収集した周辺基地局の情報をもとにネットワーク側が協調的にハンドオーバーを制御するため、途切れが生じにくくなっています。


また、sXGPによる自営網はPHS同様にオンプレミス方式(施設内に設備を構えて運用する方式)での展開が可能です。
インターネット接続が途絶えるような緊急時や、ネットワークが混雑している状況でも、施設内で独立した通信環境を維持できます。SIM認証と暗号化により、閉域網を通じた高いセキュリティも実現しています。


VoLTEによるクリアな音声通信
sXGPでIMS(IP Multimedia Subsystem)サーバーを設定すると、VoLTE(Voice over LTE)による音声通信が可能になります。

VoLTEは広い音域に対応し、音声の明瞭さを高めるほか、QoS(通信品質の優先制御)に基づき他のデータ通信より優先的に処理される特性を持ちます。
一般的なVoIP(インターネット経由の音声通話)は、ネットワークの混雑状況で通話品質が変動しやすく、専用アプリが必要になることが多いのに対し、VoLTEは標準の通話アプリを通じて携帯電話と同じ感覚で使える点が利点です。
他のアプリが動作中でも通話が優先されるため、着信の取りこぼしやアプリ間の競合が起きにくく、通話終了後は元のアプリに自動で戻ります。
PBX(構内交換機)との接続についても多くのメーカーと互換性があり、既存の通信設備からの移行がしやすくなっています。
【2026年最新】制度改正と提供体制の変化
2023年11月の省令改正でF3・F21が追加済み・速度の実態
旧記事では「総務省は2023年度の秋頃を目処に…割り当てる計画を決定」としていましたが、この計画はすでに実行済みです。
経緯を整理すると、2023年5月25日に情報通信審議会が一部答申を行い、同年7月7日から8月7日にかけて省令・告示改正案の意見募集、9月22日に電波監理審議会への諮問を経て、2023年11月10日に「令和5年総務省令第78号」(電波法施行規則・無線設備規則の改正)が公布され、附則により公布と同日に施行されました。
同日には関連する告示(総務省告示第375〜378号、周波数割当計画の変更を含む)も公示されています(出典:総務省 省令第78号、総務省 告示第376号)。
この改正により、sXGP(TD-LTE方式)の周波数チャネルは次のように整理されました。
| 周波数ch | 中心周波数 | 追加時期 |
|---|---|---|
| F0 | 1899.1MHz | 2017年制度化 |
| F1 | 1891.0MHz | 2020年12月 |
| F2 | 1914.1MHz | 2020年12月 |
| F3 | 1909.1MHz | 2023年11月 |
| F21(10MHz幅) | 1911.6MHz | 2023年11月 |
F21は、5MHz幅のF2とF3の2波を束ねる形で追加された10MHz幅のシステムです(出典:総務省 陸上無線通信委員会報告)。
あわせて、公衆PHS保護のために設けられていたキャリアセンス条件(連続2フレームの確認)が1フレームに緩和されるなど、既存の自営PHS・DECT方式との共存を前提にした調整も行われています。

10MHz幅になったことで速度がどれだけ向上するかについては、出典によって数値に幅があります。
総務省の検討資料では「速度」そのものというより通信量の試算として、端末8Mbps×10台と定点カメラ5Mbpsを合わせた計85Mbps程度のトラフィックを想定しています。
一方、報道では「下り最大28Mbps・上り8Mbps程度」という数値が紹介され(出典:ケータイWatch「プライベートLTEの基礎知識」)、XGP Forumは「4G性能相当(下り最大40Mbps程度)」とだけ記載しています(出典:XGP Forum sXGPページ)。
製品によっては「下り37Mbps・上り14Mbps」といった記載も見られます。これらは測定条件(変調方式・接続台数・電波環境など)が異なるため、公式な統一理論値として断定することは避け、導入を検討する際はベンダーに実測条件を確認することをおすすめします。
ソフトバンクへの承継と対応端末の広がり

旧記事では「ビー・ビー・バックボーン」が提供元として紹介されていましたが、2025年1月29日の取締役会決議を経て、2025年4月1日にビー・ビー・バックボーンのsXGP事業(販売等の業務)がソフトバンク株式会社へ吸収分割の形で承継されました(出典:ソフトバンク プレスリリース)。
現在の窓口・サービスページはソフトバンクに一本化されています(出典:ソフトバンク sXGPページ)。
対応端末も大きく広がりました。
2023年4月12日の発表以降、iOS 16.4/iPadOS 16.4の提供によりiPhone・iPadがsXGPで利用可能になっていましたが(出典:ソフトバンク プレスリリース)、現在のソフトバンクのsXGPページでは、これに加えて京セラのDIGNO BX3・DuraForce EX、シャープのAQUOS wish4・AQUOS wish、DIGNOケータイ4などの法人向け端末も対応機種として掲載されており、eSIM対応の機種も用意されています。
なお、「Appleと共同でsXGP専用プロファイルを開発した」「Band 39に固定することでバッテリーが大幅に改善する」といった説明は、一次情報(プレスリリースや公式ページ)では確認できておらず、本記事では断定を避けています。
ベンダー側の動きとしては、京セラのsXGPソリューションを手がけていた京セラみらいエンビジョンが2026年4月1日付で京セラコミュニケーションシステムに吸収合併されています(出典:KCCS お知らせ)。
また、PHS端末・基地局を扱っていたJRCモビリティも2025年12月末に日本無線へ合併されており、PHS関連の保守体制は今後変化していくことが見込まれます(出典:JRCモビリティ PHS製品ページ)。
上空利用・携帯網ローミングという新しい使い方

2024年末には、総務省がsXGPについて新たな使い方も「制度上の支障なし」と判断しました。1つはドローンなど上空での利用、もう1つはsXGP網と携帯電話網とのローミングです。
ローミングは、携帯電話網の圏外にいる場合に限り、協定を結んだキャリアの端末がsXGP網へローミングインできるという仕組みです(出典:BUSINESS NETWORK)。
これにより、工場敷地内でのドローン点検や、施設の電波が届きにくいエリアを携帯網と相互補完する、といった活用の幅が広がりつつあります。
導入事例と他の無線方式との比較、まとめ
医療機関・製造業での公表事例

医療機関での導入事例としては、福井大学医学部附属病院がソフトバンクの支援のもとsXGPで無線ネットワークを刷新したことが公表されています。
2019年12月に一部エリアで実証を開始し、2024年1月に事例として公開されました。従来のWi-Fi VoIP(Wi-Fi経由の音声通話)での通話品質の課題が導入の背景にあったとされています(出典:ソフトバンク 導入事例、MONOist)。
このほか、医療法人秋田病院がsXGPとiPhoneを組み合わせて導入していることも、ソフトバンクの医療機関向けページで紹介されています(出典:ソフトバンク 医療機関向けsXGP)。
病院では、手術室やICUからのナースコールにクリアな音声通信を使うほか、カメラ映像や電子カルテ、PACS(画像診断支援システム)のデータをプライベートLTE経由でやり取りする運用も見られます。
製造業では、セキュアで広範囲をカバーできるプライベートLTEを活用し、スマートファクトリー化を進める取り組みが続いています。
個別の企業名を挙げた公表事例は今回の調査範囲では見つかりませんでしたが、医療機関と同様に、電波干渉の少なさと基地局のカバー範囲の広さが評価されている点は共通しています。


Wi-Fi 7・ローカル5Gとの使い分け

施設内の無線通信を検討する際は、sXGPのほかにローカル5GやWi-Fi 7も選択肢になります。それぞれ特徴が異なるため、用途に応じた使い分けが重要です。
| 項目 | sXGP | ローカル5G | Wi-Fi 7 |
|---|---|---|---|
| 免許 | 不要 | 必要 | 不要 |
| 導入コスト目安 | 比較的低い | 数百万円~ | 比較的安価 |
| 得意な用途 | 内線音声・IoT | 高精細映像・制御 | 大容量データ |
| 対応端末 | 専用SIM端末 | 専用端末 | 汎用Wi-Fi機器 |
ローカル5Gは2023年に「共同利用」の仕組みが制度化され、複数の企業・団体でより柔軟に利用しやすくなりました。
2024年2月からは制度のさらなる柔軟化についての検討も再開されています(出典:BUSINESS NETWORK)。ただし、免許取得が必要な点は変わらず、最小構成でも数百万円規模の投資になりやすいとされる一方、sXGPはその1割程度のコストで導入できるとする報道もあります(出典:ケータイWatch)。
ローカル5Gの免許状況については「2026年6月末時点で免許人134者・基地局約1,710局」という情報もありますが、総務省の該当ページを直接確認できていないため、参考情報として紹介するにとどめます。
Wi-Fi 7については、2023年12月22日に総務省が技術基準を改正し、即日施行で国内利用が可能になりました。
320MHz幅という広い帯域を使えるのが特徴で、大容量データの高速なやり取りに向いています(出典:ITmedia PC USER)。
ただしWi-Fiである以上、ハンドオーバーが端末主導になる点や、電波干渉のリスクは引き続き考慮が必要です。内線音声やIoTセンサーなど「途切れないこと」が重要な用途にはsXGP、映像解析やロボット制御など「大容量・低遅延」が求められる用途にはローカル5G、オフィスでの汎用的な大容量通信にはWi-Fi 7、というように使い分けるのが現実的です。
導入・継続利用を検討する際のチェックポイント

最後に、PHSからsXGPへの移行やプライベートLTEの新規導入を検討する際のポイントを整理します。
まず、自営PHSを使い続ける施設については、旧スプリアス規格の機器であっても「他の無線局に妨害を与えない場合に限り当分の間使用可」とされており、制度上はただちに使えなくなるわけではありません(出典:総務省 陸上無線通信委員会報告)。
とはいえ、PHS関連事業者の統合・再編が進んでいることから、端末や基地局の保守体制は今後変化していく可能性があります。中長期的な移行計画を立てておくと安心です。
次に、対応端末とベンダーの確認です。sXGPは提供元の承継やメーカーの事業再編が続いているため、導入前に現時点の対応端末一覧や保守体制を必ず最新の情報で確認してください。
また、速度や接続台数などの仕様は出典や製品によって数値が異なるため、カタログ値だけでなく実際の設置環境での実測値を確認することが重要です。
最後に、BCP(事業継続計画)の観点も忘れてはいけません。
現代の事業は通信技術への依存度が高く、災害やサイバー攻撃時に外部通信やクラウドサービスが利用できなくなる事態を想定しておく必要があります。
電源対策に注目が集まりがちですが、通信手段が確保できなければその効果は限定的です。
sXGPのようにオンプレミスで完結する自営網を備えておけば、外部ネットワークが混雑・途絶した状況でも、施設内のスタッフ間コミュニケーションを公共ネットワークから独立して維持できます。
制度改正や提供体制の変化を踏まえたうえで、自施設の用途・規模・予算に合った通信方式を選ぶことが、PHSからの移行を成功させる鍵になります。
