皆さんは「どうせ、何をやっても無駄」と考えてしまうことはありませんか?
例えば、「選挙に投票したところで自分の一票なんてどうせ意味がない」とか、「コンビニやスーパーにマイバッグを持ち込んだところで、どうせ意味がない」など、こういったあきらめというものは、特に大きな事柄に対して個々が積み上げていくような場合に感じることが多いような気がします。
この記事のインデックス
学習性無力感とは?
「学習性無力感(Learned Helplessness)」とは、ポジティブ心理学で知られる米国の心理学者マーティン・セリグマンが1967年に発表したものです。
生物は抵抗したり回避したりできないストレスに長い時間置かれると、そういったストレスフルな環境から逃れようという行動すら無駄に思われてしまう状況を指します。
では、人間に「学習性無力感」が現れるのはどういった状況のときでしょうか?
心理学の実験では、「道具的課題」と「認知的課題」の2種類の実験が実施されました。
まず、「道具的課題」実験では
- スイッチを押せば雑音が止まる状況
- スイッチを押しても雑音が止まらない回避不可能な状況
に分けて実験を行いました。このような実験下では、回避不可能な状況にある人は学習性無力感に陥ることが証明されています。
一方、「認知的課題」実験では
- 数学の課題に対して正解がある状況
- 課題に対して正解がなく、決まったフィードバックが得られない解決不可能な状況
の2つの状況で比較しました。結果は前述と同様であると考えると、きっと正解がある被験者の方が無気力感は発生しないと考えることでしょう。
しかし、実はこの認知的課題においては、状況によって結果が別れてしまいました。
解決できない課題を複数与えた場合、前述と同様に無気力が発生しました。
しかし、解決できない課題を一つだけ与えた被験者は、むしろ正解がない状況の方がパフォーマンスを発揮したという結果が出ているのです。
このように、解決不可能な課題を与えたとしてもその課題が単発であれば、むしろ意欲的に課題解決に取り組むということが分かっています。
ビジネスにおける学習性無気力感
ビジネスにおいて学習性無力感に陥る原因として多いのは、上司から繰り返し否定されるパターンです。
上司本人はその部下のためと思って発言していたとしても、部下にとってみれば「何度も否定された」という印象に変わりはありません。
また、到底到達することができない大きな目標を掲げられた際にも、同様のことが起こると言われています。
たとえば、ビジネスの条件が以前とあまり変化がないのに対して、「今期は2倍の目標を達成して欲しい」などと無理強いされた場合などです。
人が学習性無力感に陥らないためには、自分の行動が「必ず良い結果につながるのだ」という認識を持つことが大切です。そのためには遠すぎず、近すぎない目標設定、もしくは積み上げるための中間目標設定が必要となります。
「どうせ無理」に捉われた意識
学習性無力感の根本は、自分の行動が結果に結びついていない、もしくはその先に目標に到達する未来が見えてこないと考えてしまうことにあります。
逆に、自分が行動したことが、結果に大きな影響を与えると実感することで、無気力感は払拭することができるのです。
その回避方法について、私は「どうせ無理」と思わせないことが重要だと思っています。
「どうせ無理」という意識は、誰もが物心ついた頃に周囲の大人や学校の先生などから言われることで認知するのだと思います。私たちは皆、生まれたばかりの頃には周囲にあるものすべてに「触れてみたい」と考えていたはずです。
ところが、いつからか危険なものには触れない、危険と思われるものには近づかない、危険と感じたら回避するといった具合に、次第に挑戦することから遠ざかっていくのです。
確かに、体が動かなくなったり、死んでしまったら元も子もありませんから、最低限の危険回避はすべきです。しかし、何にでもそういった危険回避の癖をつけてしまっては、何事にも挑戦できず、その判断さえも他者に委ねる人間になってしまいます。
つまり、「どうせ無理」という一見賢そうな考え方は、行動が結果に結びつく以前に、行動を起こす気力でさえ奪ってしまうのではないかと思うのです。
結果の見える化を行う
このように、人は自分の働きかけに対して何らかの成果が欲しいと思うものです。
行動が結果を伴う経験を「随伴経験」といい、行動が結果を伴わないような経験を「非随伴経験」といいます。
「やってみたらうまくいった」という場合は「随伴経験」であり、反対に「やってもうまくいかなかった」という場合は「非随伴経験」になります。
つまり、随伴経験が少なかったり非随伴経験が多かったりすると、学習性無力感が芽生えやすいと言えるのです。
これらの払拭には、自分が行動することで何らかの結果に繋がるといった成功体験をさせることが重要です。
たとえば、広告やチラシなどの販促活動を行う場合、必ずしもすぐさま売上結果に現れるとは限りません。
そういった場合には、広告・チラシを打った際に、通常日と比較して来店が何名増えたかや、チラシ掲載の特典引換クーポンを持ってきた方が何名いたかなど、売上結果に到達する手前に別の目標値を作ってあげ、その達成度によって効果を測ることが必要です。
テレアポを実施するならば、たとえ売上に繋がらなくても、荷電して担当者へ繋がった件数や資料請求に繋がった件数や、アポイントが取れた件数などを数値化することで、売上というゴールに到達していなくても実施したことで結果が出たという意識を持つことができます。
また、メーカーなどで開発や設計、製造などに関わる方、業務に関わる方にも、売上結果や顧客満足度のアンケート結果などを見える化してあげることで、大きなモチベーションに繋がったりします。
結果が出ない原因を他者のせいにさせない
例えば、達成困難な売上目標を設定した場合、「目標が高すぎるから達成できないのだ」と思ってしまうと学習性無力感に陥ってしまいます。
売上目標が適正であることをちゃんと納得させることができれば、自分の能力や努力が不足していることを実感し、意欲的に取り組む可能性があります。
とはいえ、そこで個人攻撃をしてしまうと、それはそれで逆効果です。
大切なことは、「やってもうまくできなかった」という経験の直後に、一緒にその原因について考え直す習慣を作ることです。
悪い結果が出た原因について考え直すことを「再帰属」といいます。
失敗の原因を丁寧に分析したうえで、「こうすればもっとうまくできそうだ」という方法を見つけることができたり、「別のやり方なら達成できそうだ」と戦略の見直しができたりすると、前向きになります。そうしたことを後押しする仲間の存在が、学習的無力感を軽減させていくのです。
このサイクルは、言わば PDCA を回すことです。PDCA がきちんと回っていないことで、無力感や他責が蔓延してしまうといえます。あなたの会社では結果の検証をおざなりにしていませんか?
このように、人間のモチベーションを高めるためには、一人ひとりに合った適切な目標値が必要です。決して正規分布から平均的に同じことをやらせてはいけません。
ツールの選び方
労働生産性というものは、手法そのものに溺れてしまうと向上することができません。ツールはあくまでも手段であり、目的ではないからです。
情報技術に投資をしても、生産性が上がるどころかむしろ伸び悩んでいる状況を「生産性パラドックス(Productivity Paradox)」といいます。
つまり、いくら情報技術に巨額を投じても、それが正しい使い方をされなければ、生産性は上がるどころか低下してしまう恐れがあるのです。
例えば、経理担当者がExcelを使って情報処理を行うよりも、専用ソフトを使ったほうが業務がスムーズな場合もありますが、現実にはそうなっていることは多くないということが伺えます。
多くの経営者やマネージャーが悩むのは、市場にはあまりにも多くのツールが存在しており、自社がどのツールを使うと効率的なのか分からなくなってしまうのです。
そのうえ、多くのITベンダーは自分のツールを売りつけることに必死で、御社の業務効率がどうなるかまでは関わっていられないと考えているのです。規模が大きければ大きいほど、大きな売上を生み出す顧客にしか興味を持ちません。
ですから、ツールを選ぶ際には、広くシェアを持っているかよりも、いかに親身になって御社の業務効率改善に対してコミットしてくれるベンダーかを見極めることが重要だと言えます。ベンダーがどこまでツールのカスタマイズを受け付けてくれるかということでも、その力量が透けて見えると思います。
その他の要因
コンピュータであれば、環境や時間に関係なく、1時間あたりの生産性は同じだといえます。しかし、人間はそうはいきません。時間あたりの人間の生産性は、その環境や時間帯によっても大きく異なります。そのうえ、人によって集中できる時間帯や環境は異なります。
多くの研究者の結果で、人は1日に集中して長時間働くよりも、1日8時間、休憩をしっかりと挟んで集中したほうが、結果的にアウトプット効率が高くなると言われています。
単に労働時間を削減するよりも、よく眠り、瞑想を挟み、短い昼寝と運動、そしてできるだけ多くの休憩を挟むことが人間にとってパフォーマンスを発揮しやすいと言われています。
さらに、ツールをIT化しても、ある仕事の意思決定者が明確でなかったり、複数の上司に稟議を通さなければならないような状況下では、部下の生産性は一向に上がりません。そのうえ、そのプロセスの複雑さから結果へ到達する自己の姿が遠のいてしまい、結果的に学習性無気力感に陥ってしまうのです。
以上をまとめると、大切なことは、「適切な目標×適切な業務戦略×適切な手法」なのです。
まずは適切な目標を立て、そこへ達成するための適切な業務改善を計画し、それらに合った適切な手法(ツール)を選択するようにしましょう。
そのためにも、単なるツール販売のベンダーよりも、業務改善提案までしてくれるコンサルティングベンダーに協力を要請することが成功の秘訣であると言えます。
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