「営業成績が思ったほど伸びない…」「今のままで今期の予算達成はできるのか?」
どの企業にも有りがちな悩みであると思います。 バジェット 達成の見込みが立たなければ、営業マンのモチベーションも上がりません。
これらの悩みに陥りがちな例として、予算の進捗管理はできているが「白地(しらじ)」の管理ができていないという企業が多く見受けられます。
今回はこの「白地(しらじ)」の段階から「案件」に至るまでの、「予材管理(よざいかんり)」という手法について説明していきたいと思います。
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営業は常に目標予算に焦点を当てていなければならない
私は以前、家電量販店の店長をしていました。
その関係で社員やパートナーさん含め、一人ひとりが今日一日の予算を暗証できるのは当たり前で、毎日それを達成するのが全員の仕事でした。
むしろ、それ以上の成績を上げなければ、その月の店舗自体の予算達成が見えてこないという状況に身をおいていました。
目標は店舗のその日の売上・粗利予算以外に、獲得会員数、インターネット回線や各種保証サービスの入会数、主力商品の販売数などを設定しており、獲得時には互いに獲得したことをインカムで報告し、全員で「ナイス!◯◯さん◯◯獲得おめでとう!」と言って褒め合うという文化でした。
目標数値を言えない営業組織
その後、私は建設業の設備下請け企業へ転職しました。
最初に驚いたのは、「営業」と呼ばれている人々が全員自分の営業目標を言えないことでした。設計や技術の出身者が営業の大半を占めていたことも要因かもしれません。
営業目標が言えないわけですから、当月の見込み数値も把握していません。それはそんな状況であっても、下請けには決まった元請け会社から自然に受注が入ってきていたからです。
そこから年月が経過し、ビジネスの景況は少しずつ変わっていきました。たとえどんなに仕組みが出来上がったビジネスモデルでも、同じことを繰り返していてはいつまでも成長が続くことはありません。
組織が大きくなるに連れ、徐々に予算と実績の乖離が大きくなり、営業やその組織を束ねるマネージャーは不平不満が多くなっていきます。
「トップが立てた予算はめちゃくちゃだ」
「こんな景況であんな予算なんて達成できるわけがない」
「会社は顧客をちゃんと見ていない」
「自分はこんな仕事をするためにこの会社で働いているわけではない」
営業部全員の愚痴をまとめると、おおよそこんな感じでした。
外から経営者の都合を冷静に見れば、「会社の業績を維持していく=会社だけでなく社員全員の生活を支える」であるわけで、もちろん、景況が良くないからといって予算を下げれば、経費や皆のお給料を減らさなければならないわけです。場合によっては社員がリストラを迫られるかもしれません。
「それならそれでいい」と納得する社員は、果たしてどれだけいるでしょうか?
マネージャーの思い込み
「予算必達と言ってしまうと部下が萎縮してしまうし、パワハラになりかねない」そのように言うマネージャーもいました。果たして、萎縮しているのは部下なんでしょうか?
そういった心境が災いして、マネージャーによっては部下へ
「目標を達成できないのは分かっているが、ぶっちゃけどれくらいならいけそうか?」と聞くマネージャーもいました。
つまり、できもしない目標であると、マネージャー自身が思い込んでいたのです。
よく、「当社の社員はアイデアに乏しい」
「なぜ当社ではイノベーションが起こせないのか?」と悩んでいる管理職がいますが、是が非でも目標を必達すると考えていない組織で、新しいアイデアなど出るわけがないのです。
もちろん、目標が達成できないからといって、罰を与えたりネチネチとお説教するのはどうかと思います。
ならばせめて、部下に「目標にはほんの少し届きませんでしたが、みんなでアイデアを振り絞って、素晴らしい行動をした結果です」と言わせてあげませんか?
毎回叱らなければならないような結果に終わるのは、部下だけの責任ではなく、そのマネージャーの本気度に要因があるのです。
目標数値にフォーカスさせるには?
シンプルに言えば、マネージャーが常に目標数値達成について悩み、部下へ相談を持ちかけることです。
ときにはマネージャーが自分の上長を悪者にしてでも、部下と一体になって何としてもその目標の達成に立ち向かうという姿勢を見せることが大切です。
「この予算をやらなければならないけど、何かいい方法はないかな?」
「一段回見込みを上げられる顧客はいないだろうか?」
「一緒にこの顧客へ商談を持ちかけられないだろうか?」
部下と顔を合わせるたびに、もしくは定期的な営業ミーティングの度に、一人ひとりの予算や行動状況を見ながらこのように問いかけるだけでも、部下は徐々に数字を意識するようになっていきます。
当たり前のことですが、まず、前提として「予実管理(よじつかんり)」をしっかりと行うことが大切です。
予実管理とは、営業一人ひとりの予算と実績の乖離を、通期、半期、四半期、月度、週次などで細かく絞り込んで管理していくことです。
私が予実管理を学んだのは、家電メーカーの販社で経営企画に在籍していた20代半ばのことでした。
学生時代、経営・財務を学んでいた私は、PL(プロフィット アンド ロス・ステイトメント)や BS(バランスシート)の中身を、いかに営業部が読み解きやすい形にして落とし込むかを考え、シンプルないくつかのグラフを中心として作成していました。
そして、目標との乖離が埋まった際には、共に喜び、褒めることが重要です。決して、足りない数字だけを要求して営業を責めるようなことをしてはいけません。
結局、何回も言い聞かせて、共に悩み、共に歩む姿勢。シンプルですがこれが最も大切なんです。
そうすれば、最初は愚痴ばかり言っていた部下も、徐々に自分から目標数値の話を持ちかけてくるようになってきます。
しかし、単純に毎回目標数値だけを付け合わせても、材料のない料理に具体的なアイデアなど出てこないのが現実です。そこで大切になってくるのが、材料「予材(よざい)」を創出するための行動を、いかに効率よくさせるかということなんです。
まずは行動量を増やし、毎日達成すべき指標を作る
そのためには取引先をたくさん巡回することです。
たとえば、これまで営業巡回に目標を持っていなかった企業で「今月は一人100件回ろう」と持ちかけると、決まって「そんなに回るのは非効率的だ」「多く巡回することよりも質が大切だ」などと言ってくる人がいます。
では、「質が高いとはどういう状態でしょうか?」「効率的な巡回とは何でしょうか?」
この問いに即座に答えられる人はほとんど皆無でしょう。
なぜなら、質を高めて効率的にするためには多くの巡回経験が必要だからです。やる前からそれを的確に把握することなど到底できません。
単純に、人は誰しも、変わりたくないのです。
ですから、やる前からできない理由を並べて計画を頓挫させたいだけなのです。
その心理を変えていくためには、パワーは使いますが、何度も何度も言い聞かせ、小さな成功体験を積み重ねるしかないのです。
取引先はソフトタッチでたくさん巡回した方がいい
ではここで、そもそも論に帰って考えてみましょう。
こんなにIT化が進んでいるのに、なぜ人間による営業活動が必要なのでしょう?
店舗での接客も然り、そんなものはWEBや AI にでも任せておけばいいと思いませんか?
たとえばAIは、蓄積されたエビデンスをデータ化し、それを根拠にして考え、実行するテクノロジーです。
しかし、人間はAIのように過去のエビデンスから正確に行動を決められるわけではありません。
人間は過去の記憶から、勝手な思い込みや判断をしてしまう傾向があり、あまりデータを活用して行動しているとは言い難いからです。
皆さんも経験があるかと思いますが、人はよく接触する相手に対して親近感を持ちやすいのです。
これを心理学では「ザイオンス効果」と言います。
人は興味や関心の無かった物や人物でも、頻繁に目に触れたり、接する機会が増えれば次第にその対象に対して良い印象を持つようになるのです。
接触回数があるほどその対象への警戒心や恐怖心が薄れ、親近感を持つのです。
SNSやメルマガといったマーケティング手法は、まさにこれを活用したものだと言えます。
ただし、あくまでもザイオンス効果は、相手を好きか嫌いか分からない段階で効果があるということを覚えておいてください。
特に、相手から既に嫌な印象を持たれている場合、ザイオンス効果は真逆に働いてしまいます。
だからこそ、あまり親しすぎない取引先にこそ、効果があるのです。
とにかく、深くなくてもいいからお客様とのコンタクト回数を増やすというソフトタッチを多くすることが大切なんです。
巡回するためには何らかの情報が必要でしょう。
取り扱い商材が多い業種はいいですが、大抵の場合、そんなに頻繁に新商材ができるわけではありません。
そういった場合は商品の活用事例や導入事例、アイデアを提案書にまとめたものなどを用意していきます。
そのためにも、自社のサービスや商品を導入していただいた企業には、あらかじめ導入事例をいただくようにしておくとスムーズにネタを作ることができます。
もしくは、企業名を出さないまでも、仕事のケーススタディ(導入事例などの企業活動のエビデンス)を作っておくことは大切です。これは販促に使うだけでなく、自社の後進育成にも活用できます。
「朱に交われば赤くなる」ということわざがあるように、人間は周囲に大きく影響されるものです。
自分の理想をすでに実現したりチャレンジしている人物に出会うと、人は無意識に同調したいと考えます。
特に競合他社や同じ業界の企業がしていることに対しては、大きな関心が湧くのです。
小さな情報を積み重ねていくことの大切さ
取引先をたくさん巡回すると、いいこともあれば悪いこともあります。
しかし、少なからず、何かしら前進することが多いのではないでしょうか?
「久々に◯◯様へ訪問したら、最近注目している商品の情報を得ることができた」
「何度も訪問しているうちに、先方の会社から良い話をいただくことができた」
「当社の◯◯という商品のウィークポイントを指摘されたことで、改善点が見つかった」
このように、訪問回数を増やすことで何らかの情報を入手することができます。ミーティングの際に、会社へ提言するアイデアを生み出すこともあります。
これが目標数値を達成するための材料を生み出し、営業のモチベーションを高めていくのです。
営業目標を達成するためには、それの元になる行動量が重要です。
自分がやるべき「訪問件数」「アポイント件数」「メール、DM の回数」「商談回数」など、目標達成に繋がる小さな目標を「KPI」という指標にして行動を重ねていきます。
日報や週報などに時間を使ってしまうひとつの要因として、
「言い訳をたくさん並べなければならない」というのがあります。
小さな目標がたくさんあり、毎日多くの顧客と接していれば、もう日報を書くネタに困ることもありません。
日報は文章を書くものではなく、決められた行動目標のテンプレートにその日の行動数値を入れ、一言コメントするだけでいいのです。
マネージャーとしても毎日の行動が数値として明確になれば、いちいち部下と顔を合わせなくともコントロールがしやすくなるはずです。
私が店長をやっていたときも、この目標達成のためのプロセスを細かく数値化していました。
たとえば、会員獲得数、他部門への送客数、各種サービスへの加入数、注力カテゴリーの接客数などです。
日常の目標というのは何も営業数値に関わらず、それこそ顧客にお礼を言っていただけた数でもいいのです。
なぜなら、顧客から礼を言われるということは顧客の不平不満を解決し、満足していただいたということですから、その積み重ねは必ず大きな営業成績に繋がるはずです。
こういった目標を達成する積み重ねが、営業に小さな成功体験をもたらし、やがてはモチベーションを持って数字を意識することに繋がっていくのです。
予材を管理する方法
さて、ここからが本題です。
行動指標を明確にし、訪問回数を増やすことで、多くの材料を入手できるようになるはずです。
次はいよいよ、最低でも目標必達をするための予材を管理していきます。
「予材管理(よざいかんり)」とは、営業案件が「白地(しらじ)」の段階から「案件」に至るまでのマネジメントのことを指します。
予材から受注に至る流れ
まず、「予材(よざい)」の中身を3つに分けます。
「見込み」、「仕掛り(又は引き合い)」、「白地(しらじ)」です。
目標数値のうち、期間内に達成が可能であると考えられる部分を「見込み(みこみ)」と言います。マーケティングでは「リード」と呼んだりします。
また、顧客との関係性構築ができており、その顧客がいつ頃どんな商材に興味を持ちそうか、思い浮かんでいる状態(私は顧客の顔が見えていると表現します)を「白地(しらじ)」と言います。後ほど解説しますが、予材管理ではこの白地の管理が最も重要です。
そしてその関係性により、やがて受注に繋がりそうな材料が出てきたものを「仕掛り(しかかり)」と言います。
白地から受注までの流れを米作りに例えると、次のようなイメージになります。
いきなり見込み(実り)や受注(収穫)について問い詰められても、そのプロセスがしっかりしていなければ業績に繋がらないというのが何となく分かるかと思います。
精神論だけでは目標必達は皆無です。だからこそ、この前段階である「白地(稲作り)」、「仕掛り(田植え)」をきちんと実行することが重要なのです。
予材の内訳をどのようにするか
当たり前のことかもしれませんが、予算が1億円だった場合、その1億円を達成するためには、それより遥かに多くの予材がなければ達成は困難です。
的中率が100%ならばそれに越したことはないのですが、一般的に、予材は最低でも予算の2倍必要だと言われています。
予算の2倍が2億円であったとして、仕掛りが4千万円、見込みが8千万円あったとすると、2億円から仕掛りと見込みを引いた8千万円が白地となります。
白地とは積み上げるものではなく、算出された予材に足りない部分のことを言います。
そして重要なことが、それぞれの営業担当者が仕掛りを部門内でオープンにすることです。
ここをオープンにしなければ、仕掛りの段階のクオリティを可視化することができないからです。
仕掛りをオープンにしない営業の言い訳は、
決まって「全部オープンにしたら、マネージャーから問い詰められるから」です。
当人はもっと案件がホットになって、確実に物件化しそうなタイミングまで温めておきたいと考えているのです。
それって、学生時代に「僕はテスト勉強なんてあまりしていません」と言いつつ、良い点数を得る生徒に似ていませんか?
「いやー、あんな良い点が取れたのはまぐれだよ」と言って誇らしげにしたいのかもしれません。
個人の承認欲求は仕方がないとして、組織として属人化が進むのは良いことではありません。
どうしても本人がちょい出ししたいのであれば、仕掛りの状態に確度を付け、少し低めに評価しつつ、オープンにするぐらいに留めてもらいましょう。
予材はなぜ2倍必要なのか?
皆さんは「2:6:2の法則」というのを聞いたことがあるでしょうか?
2:6:2とは、全体のパフォーマンスを100%としたとき、上位パフォーマーが20%、平均的なパフォーマーが60%、下位のパフォーマーが20%になるという「パレートの法則」を基礎とした考え方です。
組織全体で予算の100%を達成しようと考えたとき、現実的に全員のパフォーマンスは均一にはなりません。
だからといって、そもそもベースが出来上がっていない営業に無理強いしたところでパフォーマンスを落とすだけです。
予算100%達成をこの2:6:2で考えた場合、例えば上位20%は100%達成の可能性を見込めるとして、次の60%は85%ぐらい、下位の20%は70%ぐらいの達成率が現実的ではないでしょうか。
そうです、これでは予算が100%達成にはなりません。
中位、下位が達成できなかった場合のリスクを考えれば、少なくとも、上位20%には100%以上のパフォーマンスが求められます。
例えば、仮に全員が予材を200%積んだとすれば前述の例に対して、上位20%が110%(10%増)、60%が100%(15%増)、下位20%が90%(20%増)なら、予算達成が見えてきます。
それが予材を200%とする根拠です。
しかし、案件型の企業の場合、一つひとつの物件が収益化するまでに長い尺を要します。
すぐに商談が確定しないわけですから、予材は2倍でも足りないことが多くなるはずです。
そういった業種の場合、特に白地作りにフォーカスを当て、可能性のある取引先にはどんどんアプローチしていく必要があるでしょう。
予材管理で最も重要な「白地(しらじ)」計画
「白地(しらじ)」はお客様との接触回数(コンタクト)を増やし、植えるための苗を育てている段階です。
顧客を理解し、その特性に合わせて手入れをしていくことで、仕掛りへと繋げていくプロセスです。
この白地は予算の2倍となる予材と、仕掛り・見込みの合計との乖離を指します。
いわゆる、気合と根性で持ってくる足りない部分を、きちんと数値化したものだと理解してください。
ですから、この白地を作るためにどんな知恵を絞り、どんな行動を取り、いつまでに仕掛り、見込みへ持ってくるのかを行動で示す必要があります。
そしてこれが、予材管理をしっかり実施することが営業のポテンシャルを引き出すという最大の理由でもあります。
常日頃から自分の顧客のことや業界のこと、売上に繋がるタネになることに関心を向けていれば、これまでには思い浮かばなかった情報やアイデアが舞い込んできて、やがて予算必達の確率が高まるというわけです。
営業が「自分は環境に恵まれていない」「会社が立てた目標が高すぎる」と言えるとすれば、この予材をしっかりと可視化し、そこに至るプロセスもしっかりやって、それでも目標必達ができなかった場合です。
そこまでいったら、ビジネスモデルやビジネス環境の変更を検討する余地があるでしょう。
さらに、マーケティング組織がある会社であれば、ここまで現場が厳密に行動してくれれば、「なぜここまでやってもマーケットが受け入れてくれないのか」、「自社は次にどんな商材でどのターゲットを狙えばいいのか」などの分析もできるようになるはずです。白地の創出のためには、このマーケティングも大きな武器となります。
トップセールス、テレアポやDM、展示会の開催、新規ビジネス創出に向けた社員教育などもこの白地作りに含まれます。ここを蔑ろにしては、予算達成は難しくなります。
会社が内部留保を十分にしていれば倒産しにくいのと同様で、予材を十分に仕込んでおけば安定した経営を継続していくことが可能となります。
ぜひ、営業個人のポテンシャルに頼るだけではなく、組織全体でこの白地(しらじ)を作っていくための取り組みを強化していただければと思います。
白地活動のノウハウについては、また次回別の記事で詳しく書かせていただきます。
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