想定読者
2021年前後の「メタバース」「NFT」ブームの報道は覚えているものの、その後Meta・Apple・Googleがどのように動き、市場がどのように変わったのかを把握できていない中小企業の経営者・広報・マーケティング担当者を想定しています。自社でXR(VR・AR・MRなどの総称)やNFTに投資すべきかどうかを判断する材料を探している方に向けた記事です。なお本記事は、2021年11月に公開した記事を2026年10月時点の情報で改訂したものです。
要点
- 「メタバース」という言葉自体は後退し、Meta・Apple・GoogleはAIグラスや空間コンピューティングへ軸足を移しています
- NFT市場は2021年のピークから大きく縮小しましたが、デジタルツインや自治体の不登校支援など実務での活用は地道に広がっています
- 中小企業にとっては「メタバースに乗るかどうか」ではなく、AIグラスや生成AIによる3D活用など自社の業務に使える部分だけを見極める判断軸が重要です
メタバースとは?変わらない基本の仕組みと2026年の代表サービス
メタバースの定義とアバター・コミュニケーションという基本構造

「メタバース」とは、古代ギリシャ語の「超越(meta)」と「(世界)universe」を組み合わせた造語で、3次元のCG空間や仮想空間そのものを指す言葉です。この基本的な定義は、2021年当時から変わっていません。
メタバースにログインしたユーザーは、自分の分身となる「アバター」を操作して、他のユーザーとコミュニケーションを取ったり、一緒にゲームをプレイしたり、仮想空間内のアイテムを集めたりして楽しみます。「アバター同士が空間を共有してやり取りする」という基本構造は、以前から存在する考え方であり、サービスの顔ぶれが変わった今も変わっていません。
2026年時点の代表例:Roblox・Fortnite・VRChat・clusterの利用者数データ
2021年当時は「マインクラフト」「あつまれどうぶつの森」などが引き合いに出されていましたが、2026年時点でメタバース・XRの文脈でよく名前が挙がるサービスは変化しています。代表的な4サービスの利用者数を比較します。
| サービス | 利用者数 |
|---|---|
| Roblox | DAU約1.23億人 |
| Fortnite | 月間利用者7500万人超 |
| VRChat | 同時接続最大15.8万人 |
| cluster | 累計200万DL(2024年) |
Robloxは2026年4〜6月期の1日あたり利用者(DAU)が約1.23億人で前年同期比10%増と報じられています。ピークは2025年7〜9月期の約1.52億人で、その後は3四半期続けて減少しているとされています(出典:Roblox Q2 2026決算(Outlook India))。Fortniteは月間利用者が7,500万人を超え、ユーザーが制作した島(UEFN)のプレイ時間が全体の47%を占めるまでになりました(出典:Unreal Engine for Fortnite creator payouts(PocketGamer.biz))。VRChatは2026年2月に同時接続の最高記録158,192人を記録し、1日平均の同時接続は約10万人とされています(出典:VRChat concurrent users record(MoguLive))。国内のclusterはアプリの累計ダウンロードが2024年7月時点で200万を超えたと発表していますが、それ以降の最新数値は確認できていません(出典:cluster 200万ダウンロード(MoguLive))。
Metaが示す「メタバースからAIグラスへ」の転換
Reality Labsの累積損失とHorizon Workrooms終了

2021年10月28日、フェイスブック社はメタバース事業への注力を掲げて社名を「Meta」に変更しました(出典:米フェイスブック 社名を「メタ」に変更 仮想空間の開発強化へ(NHK))。しかし、その後のメタバース部門「Reality Labs」は巨額の赤字を続けています。
| 年度 | 営業損失 |
|---|---|
| 2020年 | 約66.2億ドル |
| 2021年 | 約101.9億ドル |
| 2022年 | 約137.1億ドル |
| 2023年 | 約161.2億ドル |
| 2024年 | 約177.2億ドル |
| 2025年 | 約191.9億ドル |
| 2026年1〜3月期 | 約40.3億ドル |
| 2026年4〜6月期 | 約46.2億ドル |
これらは各年度のMeta決算発表に基づく数値です(出典:Meta’s VR division lost $19 billion in 2025(80.lv)、Meta’s Reality Labs loses $4.62B(Anadolu))。2020〜2025年の6年間の累計損失は約836億ドルにのぼり、2026年6月末時点では約880億ドルに達したと報じられています(出典:Meta retains optimism in VR(Outlook India))。
象徴的な出来事として、仮想空間でのビジネス会議サービス「Horizon Workrooms」(2021年8月にベータ公開)が、2026年2月16日に提供を終了しました。Metaは代替としてArthurやMicrosoft Teams Immersive、Zoom Workplaceなど他社のアプリを案内しています(出典:Meta’s Horizon Workrooms discontinued(Road to VR))。
なお、「メタバースの実現には10〜15年かかる」という発言がよく引用されますが、これはザッカーバーグ氏本人の言葉ではありません。2021年9月27日、当時Reality Labs担当だったアンドリュー・ボズワース氏とニック・クレッグ氏が連名でMeta公式ブログに投稿した記事の中の表現です(出典:Building the Metaverse Responsibly(Meta Newsroom))。ザッカーバーグ氏自身は、同年10月の「Founder’s Letter」で「今後10年でメタバースが10億人に届くことを望んでいる」と述べています(出典:Founder’s Letter, 2021(Meta Newsroom))。
Horizon WorldsのスマホシフトとAIグラスへの投資シフト

Metaのメタバース本体である「Horizon Worlds」も方針を転換しています。2026年3月、MetaはVR版のHorizon WorldsをQuestストアから外し、スマホ中心のサービスに切り替えると発表しました。モバイル版の月間アクティブユーザーは2025年に4倍以上伸びたと説明されています(出典:Meta pulls Horizon Worlds from VR(PocketGamer.biz))。発表直後、Meta CTOのアンドリュー・ボズワース氏がVR版は当面残すと表明する一幕もあり、2026年6月以降のVR版の実際の提供状況は公式には確認できていません(出典:Meta U-turns on Horizon Worlds(Euronews))。
投資の重心も明確に移っています。Bloombergは2025年12月、Metaがメタバース部門の2026年予算を最大30%削減する案を検討していると報じました(出典:Mark Zuckerberg considers metaverse deep cuts(Fortune))。Metaはその後、メタバースへの投資の一部をAIグラス・ウェアラブルに振り替えていることを公式に認めています(出典:Meta confirms shifting funding toward AI glasses(UploadVR))。実際、「Ray-Ban Meta」などのAIグラスはEssilorLuxotticaによると2025年に700万台超を販売したとされ、2026年5月21日には日本でもRay-Ban Meta(Gen 2)やOakley Metaが発売されました(出典:AIグラス日本発売(Meta公式ブログ))。2026年9月のMeta Connectでは、カメラを外した音声専用の「Ray-Ban Meta Audio」や、スマホでスキャンして作る実写に近いアバター「Hologram」も発表されています(出典:Everything announced at Meta Connect 2026(Engadget))。
Apple・Google/Samsungが広めた「空間コンピューティング」
Apple Vision Proと空間コンピューティングという言葉

2023年6月、Appleはヘッドセット「Apple Vision Pro」を発表しました。この時Appleは「メタバース」という言葉を使わず、「空間コンピューティング(spatial computing)」という表現を前面に出しました。ティム・クックCEOは「Macがパーソナルコンピューティングを、iPhoneがモバイルコンピューティングをもたらしたように、Vision Proは空間コンピューティングをもたらす」と説明しています(出典:Introducing Apple Vision Pro(Apple Newsroom))。
日本では2024年6月28日に発売され、価格は256GBモデルで599,800円(税込)でした。2025年10月にはM5チップ搭載モデルが登場し、価格は据え置かれています(出典:Apple Vision Pro M5(iPhone Mania))。一方で販売は伸び悩んでいるとみられ、調査会社IDCの推計では2025年10〜12月期の出荷は約4.5万台で、発売年の2024年の約39万台から大きく減少したと報じられています(出典:IDC estimates Apple shipped just 45,000 Vision Pros last quarter(Slashdot))。廉価版や後継機、Apple自身によるスマートグラスの発売は、2026年10月時点で正式には発表されていません。
Google・SamsungのAndroid XRとAIグラス参入

Googleも「メタバース」ではなく「AIネイティブ」という表現で参入しています。Samsungは2025年10月、Android XRを初めて搭載したヘッドセット「Galaxy XR」を発表しました。価格は1,799ドルで、米国と韓国で発売され、Gemini(Googleの生成AI)が統合されています(出典:Samsung Galaxy XR(Wikipedia))。発表時点で日本展開は明らかにされておらず、その後の日本発売についても確認できていません。
さらに2026年5月のGoogle I/Oでは、SamsungがハードウェアとGoogleが生成AI、Warby ParkerやGentle Monsterがデザインを担当するAIグラスの構想が発表され、最初のモデルは2026年秋の発売が予定されています(出典:Android XR glasses launch fall 2026(Droid Life))。
なお、Microsoftは「HoloLens」や「Windows Mixed Reality」、ソーシャルVR「AltspaceVR」といった自社のVR・AR機器・ソフトから撤退しています。HoloLens 2は2024年10月に生産を終了し、AltspaceVRは2023年3月に終了、Windows Mixed RealityもWindows 11の更新で削除されました(出典:Report: Microsoft has killed the HoloLens 2(PCWorld))。会議向けのMicrosoft Teams Immersiveなどソフトウェア面の取り組みは残っていますが、専用ハードウェアからは手を引いた形です。
このようにMeta・Apple・Googleの3社とも「メタバース」という言葉を前に出すのをやめ、AIグラスや空間コンピューティングという文脈で製品を打ち出しています。評論家の中には「メタバースは消えたのではなく名前が変わった」と指摘する声もあります(出典:The metaverse didn’t die, it got renamed(implicator.ai))。
NFT・ブロックチェーンの仕組みと市場の現状
NFTの基本的な仕組み
せっかくの仮想空間でも、既存の店舗をそのままバーチャル化しただけでは面白みに欠けます。そこで仮想空間内のアイテムに唯一性と資産性を持たせる技術として注目されたのが「NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)」です。
NFTは、ビットコインなどで実用化が進んでいるブロックチェーン技術を使い、デジタルデータに「他の物には置き換えられない」識別情報を持たせる仕組みです。取引データが複数のコンピューターに分散して記録されるため、改ざんが難しく、データの正当性を担保できます。

この仕組みにより、音楽や画像などのデジタルデータそのものに資産性を持たせられるようになりました。たとえば個人のアマチュアミュージシャンが自分の曲をNFT化すれば、曲がどれだけ流通しても、取引のたびに適正な価格づけがされていく、という発想です。ユーザー側から見た大きなメリットは、NFT化したアイテムを自分のウォレット(デジタル資産の保管場所)で管理し、好きなタイミングで売却できる点にあります。
市場規模の変化とOpenSeaの現状

NFT市場の取引額は、2021年のブーム期から大きく縮小しています。大手集計サイトDappRadarによると2021年の年間取引額は約249億ドルでしたが、CryptoSlamの集計では2025年は約56.3億ドルで前年比約37%減となり、平均販売額も124ドルから96ドルへ下がったと報じられています(出典:NFT supply growth, sales decline in 2025(Cointelegraph))。集計元によって数値の幅は大きいものの、ピーク期から大きく縮小したという方向性は共通しています。
最大手のマーケットプレイス「OpenSea」自体は現在も営業を続けています。以前は「2021年8月に流通総額が3,500億円を超えると発表」と紹介されることがありましたが、より正確には、2021年8月のイーサリアム上の取引高が約34億ドル(当時のレートで約3,700億円)に達して当時の過去最高を記録した、というDuneなどのオンチェーン集計を報道が伝えたものです(出典:OpenSea’s $3 billion month(Decrypt))。この月間記録はその後2022年1月に50億ドル超へ更新されています。
OpenSeaは2025年にNFTだけでなく複数チェーンの暗号資産トークンも扱う新基盤「OS2」へ移行しました。独自トークン「SEA」は2026年3月30日に発行予定でしたが、暗号資産市場の環境悪化を理由に無期延期となっています(出典:OpenSea postpones SEA token launch(Cointelegraph))。
音楽NFT関連サービスの現状も整理します。
| サービス | 現状 |
|---|---|
| .mura | バッジ型に再編・継続 |
| The NFT Records | 継続状況は未確認 |
| OpenSea | 継続・取引所型に拡大 |
| Axie Infinity | 継続・方針転換後 |
.muraは新曲リリース時に限定デジタルバッジを購入して応援する形にサービスを再編し、現在も運営されています。The NFT Recordsはサイト自体は表示されますが、2022年11月以降の運営状況は確認できていません。
Axie Infinityが示した教訓
ゲーム内の生き物「アクシー」を育てて取引できる「Axie Infinity」は、以前「初期投資20万円」という紹介がされることがありましたが、この金額を裏付ける資料は確認できませんでした。実際には始めるために必要なアクシー3体の価格は時期によって大きく変動し、2021年10月頃で最安約450ドル、人気のピーク時には3体で約1,000ドル程度だったとする報道があります(出典:Axie Infinity(Forkast))。
その後、Axie Infinityには大きな試練がありました。2022年3月、関連するブリッジ「Ronin」がハッキングされ、約6.25億ドル相当の資産が盗まれました。米財務省は北朝鮮のハッカー集団「Lazarus」の犯行と特定しています(出典:Treasury sanctions North Korean hacker group(Blockworks))。
この事件以降、運営のSky Mavisは「Play to Earn(稼ぐために遊ぶ)」から「Play and Earn(楽しむことを先に)」へ方針を転換し、2026年1月には一部モードの報酬トークン発行を取りやめています。利用者数についても、2021年夏のピークは1日200万人超だったのに対し、2026年は1日数万人規模まで落ち込んでいるとする記事があります。ただし、これは一次情報源ではなく、公式な数値は確認できていません(出典:Axie Infinity現状(CoinPro))。
生成AIとの融合、産業・自治体での実用化
AIグラス・AIアバターと生成AIによる3D空間づくり

2026年現在、メタバース・XRの話題の中心は生成AIとの融合に移っています。Meta・Google双方のAIグラスは、音声で生成AIを呼び出して使うことが前提になっており、GoogleのAndroid XR製品群はGeminiが中心的な役割を担っています。
アバターの作り方も変わりました。Metaの「Hologram」は、スマホで約1分間スキャンするだけで実写に近いアバターを作成でき、米国では2026年秋からWhatsAppなどの通話で試験的に提供されています。Apple Vision ProのPersona機能も同じ方向の技術で、M5搭載モデルでは作成速度が最大50%高速化されたとされています。
空間づくり自体を生成AIで行う動きも進んでいます。Google DeepMindは2025年8月、テキストから操作可能な3D環境をリアルタイムに生成するモデル「Genie 3」を発表しました。また、フェイフェイ・リー氏が創業したWorld Labsの「Marble」は、テキストや画像、動画から歩き回れる3D世界を生成し、Unity・Unreal・VRなどに書き出せるツールとして2025年11月に一般公開されています(出典:Marble by World Labs(GIGAZINE))。これまで専門知識が必要だった3D空間制作が、生成AIによって中小企業でも試しやすくなってきている分野といえます。
産業メタバース・デジタルツインと自治体活用

企業向けの活用では「産業メタバース」よりも「デジタルツイン」「フィジカルAI」という言い方が定着してきています。NVIDIAの「Omniverse」は工場のデジタルツイン構築基盤として、トヨタやTSMC、Foxconnなど製造業大手で採用が進んでいます(出典:NVIDIA and US manufacturing leaders drive reindustrialization(NVIDIA IR))。
国内では国土交通省の「Project PLATEAU」(3D都市モデルの整備事業)が2025年度末時点で329都市に広がり、まちづくりや防災の分野で活用されています(出典:PLATEAUビジョン2026(国土交通省))。
自治体では、不登校の子ども向けの居場所づくりにメタバースを使う取り組みが広がっています。静岡県の「しずおかバーチャルスクール」は県内約800の小中学校の不登校の子どもを対象に2025年4月から本格運用を始め、埼玉県も2025年9月からメタバース上の学習・相談支援を開始しています(出典:しずおかバーチャルスクール(静岡県))。派手な話題性よりも、具体的な課題解決にメタバースを「道具」として使う流れが実務では定着してきています。
国内のメタバース市場規模については、総務省の『令和7年版情報通信白書』が矢野経済研究所の調査(年度ベース)を引用し、2024年度を2,750億円としています。一方『令和8年版情報通信白書』はStatistaのデータ(暦年ベース)を使い、2025年を7,998億円としています(出典:令和8年版情報通信白書(総務省))。出典・集計期間が異なるため、この2つの数字を単純に並べて「増えた」と比較することはできません。それぞれ別の調査として参考にするのが適切です。
中小企業がXR・NFTへの投資を判断するときの視点とまとめ
ここまで見てきたように、「メタバース」という言葉自体は後退し、Meta・Apple・Googleはいずれも「AIグラス」や「空間コンピューティング」という言葉で製品を語るようになりました。NFT市場もピーク期から大きく縮小しています。一方で、デジタルツインや自治体の不登校支援のように、話題性とは関係なく実務で定着しつつある活用例もあります。つまり「流行の盛衰」と「実用の定着」は分けて見る必要があります。
中小企業にとって重要なのは、「メタバースに乗るかどうか」という大きな判断ではありません。むしろ、次のような視点で自社の業務に使える部分だけを見極めることが現実的です。
- 社内の会議・研修・展示会のように、既存の業務を効率化できる部分があるか(AIグラスによる現場作業の記録・共有など)
- 生成AIによる3D空間づくりのように、専門知識なしに自社のコンテンツを形にできる技術があるか
- NFTやデジタル資産化が、自社の商品・サービスの顧客体験や収益化に実際に結びつくか(話題性だけで導入しない)
メタバースという言葉は後退しましたが、そこで培われた3D空間技術・アバター技術・ブロックチェーン技術そのものは、AIグラスや生成AIと結びついて形を変えながら残っています。流行語に振り回されず、自社の業務課題に直結する部分だけを見極めて投資判断をすることが、2026年時点でのXR・NFT活用の現実的な向き合い方といえます。
