新型コロナウイルスの流行がトリガーとなり、最近では様々なプロセスのデジタル化が進んでいます。
これまで顔を突き合わせてやってきたミーティングはリモートの割合が増え、顧客ともリモート商談が増えています。
しかし、相手はAIでもなければロボットでもない生身の人間ですから、何となくしっくりこないコミュニケーションに不安を覚える人々も増えています。
厚生労働省の調査では、2020年は9年ぶりに労働者全体に占める離職者の割合が、採用された人の割合を上回ったそうです。(日経新聞:「離職者、就職者を9年ぶり上回る20年厚労省調査」記事より)
こういった深刻な離職者増加には、少なからずコロナ禍におけるコミュニケーションの変化が関係していると思われるため、Afterコロナのいまこそ、あらゆる組織は今一度冷静になって、人対人の関係性を見直す機会が必要ではないかと思っています。
この記事のインデックス
組織はヒト中心のマネジメントへ変わらなければならない
20世紀の企業における最も価値のある資産は「生産設備」だった。
ピーター・ドラッカー「ポスト資本主義社会」2007年
他方、21世紀の組織における最も価値ある資産は知識労働者であり、彼らの生産性である。
ドラッカーもこのように述べているとおり、現代は組織マネジメントを知識労働中心に変えていかなければならない時代です。
大量生産・大量消費が中心であった20世紀の産業社会では、投資対効果の最大化のためにヒトを計画的に管理し、統制していくことが最も結果を出せるマネジメントモデルと言えました。
しかし現代は、産業社会で人がやっていたことを機械やITが代行するようになってきており、人は肉体労働よりも知識労働をこなす割合の方が増えています。今後はAIの普及やDX化の流れもあり、ますます高度な知識労働が求められるようになってきます。
そのような状況下では、組織のマネジメントも変化せざるを得ません。
知識社会モデルでは各々が常に学習をして、人に共感し、自ら動くマネジメントが求められています。
心理的安全性と使命感のバランスが重要
「チームの心理的安全性」は、ハーバード大学で組織行動学を研究するエイミー・C・エドモンドソン教授が1999年に提唱した概念です。
この概念を「対人関係においてリスクのある行動をしてもこのチームでは安全であるという、チームメンバーによって共有された考え」と定義しています。
その後、グーグルが約4年もの年月をかけて実施した大規模労働改革プロジェクト「プロジェクトアリストテレス」により、「チームを成功へと導く5つの鍵」が発表されています。
上司が部下に高い目標を要求するのであれば、やはりお互いのことを知ることが大切です。
具体的に言うと、「自分たちは何のためにこの仕事をしているのか」ということを、お互いの視点で理解することが必要です。
この図はチームの心理的構造を表しています。
左下のスタート地点から人がA、B、Cの3つの地点へ移動することにより、チームの構造が変わっていくことを表しています。
最も理想的なのはA地点への移動者が多くなることで、そうなればチームは自然に自律的になり、自己学習して成長できるようになっていきます。
もしも、「目標に届かないからもっとヤル気になれ」と叱ってしまうと、人はどんどんC地点の不安・不満ゾーンへ入ってしまうんです。
離職する人が多くなっているチームでは、このC地点に人が多く留まっている可能性が高いです。
では、どうすればチームの多くがA地点へ移動してくれるのでしょうか?
無関心な人がいきなりA地点へ移動することはないため、まずはスタート地点の人をC地点ではなく、B地点へシフトさせることからはじめます。
B地点へ移動してもらうためには、チーム内の相互理解と他者への尊重を持ってもらうことが必要です。
間違っても、いきなり無理な負荷を掛けたりしてはいけません。
そしてB地点からA地点への移動には、チームの存在意義を理解し、外へアウトプットするための価値創造を深めていくことが必要です。
では、スタートからB地点へ移動するきっかけとなる「相互理解・他者尊重」と、B地点からA地点へ移動するための「存在意義・価値創造」をどのように作っていけばよいかを見ていきましょう。
ありのままの自分と他者の喜びを「=」に近づける
具体的にいえば、「他者の期待に応える」ことを辞め、「他者の喜びを知る」ことにシフトしていくことです。
産業社会では前述のとおり、人を機械のように効率よく動かす時代でした。
そのため、多くのビジネスマンが「仕事に私情を持ち込むな」「仕事では別の顔を持て」と言われてきました。
別の顔とは、つまり「偽りの自分になれ」ということでもありました。
しかし、21世紀の知識社会では、偽りの自分のみで仕事をするのではなく、「ありのままの自分」と「偽りの自分」のバランスを取っていくことが求められています。
誰しも、子供の頃はありのままの自分で生きていたと思います。
しかし、いつからか親や家族、社会からの期待に応えようと思うあまり、大人になるに連れ、誰もがもうひとりの「偽りの自分」を形成していきました。
社会に出てしばらくするとさらに多くの期待をかけられ、いつの間にか「ありのままの自分」と「偽りの自分」が同化してしまっていることに気付かされるのです。
そして、多くの思考が「〜したい」ではなく、「〜しなければ」に変わってしまいます。
そうなるといつの間にか、どれが本音でどれが建前なのか、自己を見失ってしまうことに陥ってしまうんです。
ここから脱却する方法が「ホールネス」という考え方です。
「ホールネス(全体性)」とは、フレデリック・ラルーが書いた「ティール組織」という本で紹介されている新時代の組織づくりで重要視すべきキーワードです。
ホールネスの作り方
ホールネスとは、自分のすべての人格・人間性をさらけ出すことを意味します。
「ティール組織」は、メンバー全員が弱さや迷いなども含めたすべての人格・人間性を発揮して、自分らしく働けることを大事にするという考え方です。
人間の脳は「他者の喜び」、「他者のためになること」、「人の期待に応えること」、「人の笑顔」、に多くの喜びを感じるようにできています。人間が社会的な集団を作って生きるために自然にそうなったと言われています。
ですから、脳はこの社会的報酬をとても欲しがるようにできています。
それなのに「偽りの自分」がどんどん幅を効かせてしまうと、人を笑顔にすることさえも職務上の義務であると感じてしまい、社会に適応することがどんどん苦しくなってしまうんです。
だからこそ、自分は人に喜んでもらうことが好きで、それが自分の喜びになるということを意識することが重要なんです。
あなたはとても満足のいく買い物をした後に、営業の方に心から「ありがとう」と言えていますか?
たったその一言を伝えるだけで、相手にどれだけ多くのモチベーションがもたらされるでしょうか?
よくテレビ番組で特集する大盛りで値段が激安な飲食店。
あそこに出演している店主は苦しそうにしていますか?
スタッフさんが「こんな値段でこんなに大盛りにして儲かるんですか?」と聞くと、必ず「お客さんが喜んで食べてくれるから儲からなくてもいい」と答えています。
彼らにとっては儲けることよりも、お客様が喜んでくれることが重要なんですね。
私も家電を店頭で販売して配送・工事をする仕事を長年やっていたので、その気持ちがよく理解できます。
家電を納品した後のお客様の喜ぶ顔を見たくて、いつの間にかできる限り自分で納品や工事に出かけていました。
あれはまさに、ありのままの自分と社会的な自分が一致している瞬間なんですよね。
あまり極端だとビジネスにならなくなってしまうので、バランスは大切なんですが。
チーム内であっても、こういった他者の喜びに気が付くことによって、ありのままの自分と偽りの自分が少しずつ統合されていきます。
「自分自身のことを大切にすること」
これこそが自分をちゃんと理解し、そして信じ、その上で他者を信じることに繋がるんです。
これがありのままの自分だと実感できる行動を積み重ねていくことが大切なんです。
そうすると、チームの中で本音を出すことを恐れることなく、ちゃんと発言できるようになります。
周囲はそれをちゃんと認めてあげて、お互いの人間性を許してあげるようにしていきます。
まさにこれがホールネスです。
あなたはチームのメンバーがとても素晴らしい行動をした後に、心から「ありがとう」と言えていますか?
たったその一言を伝えるだけで、相手にどれだけ多くのモチベーションがもたらされるでしょうか?
もしもあなたがチームのリーダーなら、その効果は何倍にもなることでしょう。
他者を人として尊重する大切さ
よく昔から、ビジネスは「ヒト・モノ・カネ」を有効活用して儲けることだと言われています。
確かに定義上はそうかもしれませんが、「人をモノやカネと同類にして考えるのはいかがなものか?」とも考えられます。
私は人はそれぞれ、「デフォルトで違う存在」なんだと言うことをちゃんと理解する必要があると考えています。
他者にとっての自分は自分にとっての自分ほど重要ではないからです。
たとえると、みんなそれぞれ自分の箱の中に入って相手を見ています。
ですから、もしもあなたが相手の考えを理解しょうと思うなら、自分の小さな箱から外へ出て、相手の箱に足を踏み入れなければなりません。
人が1000人いれば、そこには1000個の箱があり、その中でそれぞれが別の景色を見ているんです。
しかし、それぞれの箱の中には、必ず他者でも共感できる何かがあります。
その何かを知るために、自分を開示し、相手を理解し、そして共感するというプロセスが重要なんです。
そうすると、自分と相手の異なる部分が見えてきます。
その中には自分も相手も同様に嬉しいこと、楽しいことがあり、それが共感に繋がります。
その逆に、お互いに異なる部分を持っているわけですから、相手が自分と交わることで解決できるかもしれない悩みや問題が見つかったりもします。
そこからお互いの強みを活かし、弱みをカバーする協力関係が生まれてくるのです。
別の言い方をすると、共通のゴールを共有し、共創していく関係性が生まれてきます。
共感できる部分もあれば、異なる部分もある。どんなに共通点が多くても、全く同じ箱に入っている人は存在しない。
それぞれ異なる人間なんだからそれでいい。
そういう基本的なことをしっかりと理解し、他者を尊重することが非常に重要です。
リーダーは指示を出すのではなく、価値を作り出す
前述の通り、リーダーが無理に指示出しをすれば、部下はC地点へ移動してしまいます。
ですから、リーダーは指示出しをするのではなく、メンバーが共創できる環境を作ってあげることが大切です。
これがB地点からA地点へ人が移動するきっかけを作り出します。
リーダーは良きファシリテーターになり、メンバーがあらゆる課題に対してクリエイティブになれるように仕向けていきます。
具体的には、「今回のことはこうしよう」とか、「これってこうなんじゃない?」などと発言するのではなく、
「答えを知っているのはお客様だから、正解はないよね。みんなで意見を出し合って試してみよう」と発言するのがベストです。
こうすることで、メンバーは上司の顔色を伺うのではなく、「お客様のことをしっかり理解しよう」という思考になるんです。
もしも、トップが「〜はこうだからこう考えればいいんじゃない?」と発言してしまうと、皆「あれ?トップと自分は意見が違うかもしれない」「ちゃんとトップの腹の中を知っておかないといけない」というように、内向きに考えるようになってしまうんです。これがいわゆる忖度です。
やがてこんな組織にはYESマンしか存在しなくなり、「トップと考えが合わない」と思う人はどんどん離職していきます。
価値創造の考え方は外にも効果的
企業がDX改革を達成し、それにより価値創造を進めていくためには、社内業務のデジタル化や効率化のことだけではなく、新たな事業価値や顧客体験を生み出し、自社のビジネスモデルを変革することが大切です。
「顧客と共に市場を創る」という観点からも、顧客視点を大切にする組織を作っていくことが重要です。
よく、進捗会議で「今の数字が目標に対して何パーセントの進捗で…」のような発表をされるかと思います。正直、進捗だけの議論など、本当に無意味だなと思います。
それよりも、顧客の目的達成のために各々がそれぞれどんなことをやっていて、それについて各々が何に悩んでいて、どう協力しあえばいいのか、もしくは他のやり方は無いのかなど、建設的な意見交換を行うほうが有意義だと思います。
そして何よりも、もっと顧客を深く理解し、顧客のベネフィットを追求することに時間を割くべきだと思います。
そして、そのためにも、個々の考え方や役割、達成すべき目標を明確にしておくことが非常に大切です。
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