以前からよく、日本は諸外国に比べて労働生産性が低いといわれています。
実際に、公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2018年版」のデータによれば、日本の労働生産性の低さはOECD加盟国36カ国中21位というエビデンスが出ているそうです。さらにはなんと、時間あたり4,744円という悲しい現実があります。
参考:日本生産性本部 | 労働生産性の国際比較
さらに、主要先進国7カ国の中ではなんと、50年連続の最下位という実に屈辱的なエビデンスが出ています。
では、なぜ我が国の労働生産性は上がらないのでしょう?また、我々の努力によりこの数値を上げていくためにはどのようにすればいいのでしょうか。それが今回のテーマです。
この記事のインデックス
長時間労働?それとも…
このような話をすると、日本の労働者は長時間労働で疲弊しているのではないかと考える方々がいらっしゃいます。
しかし、日本が長時間労働で生産性を落としていたのは、実際のデータからは1990年代までとされています。
ここで、労働生産性とはどのように算出されているのか、ざっくりと例を挙げます。ここでは分かりやすく、企業の中で プロフィットセンター となっている営業さんの労働生産性いわゆる「営業生産性」について深く入っていきましょう。
営業生産性(営業の投資対効果「ROI」)は、ざっくりですが、以下のような式で数値化することができます。
シンプルに表現すれば、稼ぎ出した粗利を営業コストで割るだけです。
つまり、営業コストを投資と考え、それによって稼ぎ出した粗利をリターンとします。
そして ROI を高めるためには、投資の効率化を図り、リターンの価値を高めればいいのです。営業に置き換えれば、人的リソースを効率よく活用し、そこから生み出される商品・サービスの市場に対する付加価値を高めればいいわけです。
参考:厚生労働省:労働関係助成金について
それができれば、より無駄を省き洗練され生み出されたプロダクトが、高く売れるわけですね。高く売れれば、当然同じコストであっても生産性は上がります。
実は、これが今の日本の労働生産性が低い根本的な理由なのではないかと思います。
つまり、企業が必死にリソースを使って作り出したプロダクトの市場価値が、アウトプットの時点で低く評価されてしまっているのです。
原材料コストがかからないソフトウェアやコンサルティングから大きな売上を導き出すことができれば、粗利は高くなるのです。
最終目標はプロダクトの付加価値向上だが…
以上のことから、最終目標はプロダクトの付加価値向上であることが見えてきます。
しかし、現実には「言うは易く行うは難し」です。
ただ、そういった商品ができればいいという単純な問題ではないからです。
企業がそれなりの規模になれば、そこで働く従業員の数は膨大になっていきますし、船頭さんが意思決定したとしても、すぐに組織がその方向へ進むわけではありません。
まずは順番に、なぜ付加価値を上げることが難しいのかを考えていきましょう。1990年代までの日本は、大企業が私財を投入して大量生産、大量売買をすれば市場がついてくるといった「規模の経済」の時代でした。
しかしグローバル化が高まった現在では、その規模の経済は賃金の安い他の国が担当し、我が国のような先進国にはニッチ領域で高付加価値となるビジネスを展開する「多様性の経済」の時代にシフトしてきました。
これには少子高齢化社会がやってきたことや、世界的にIT化が進んだことで個にアクセスしやすくなったなどの世界の変化が関係しています。
実際にそんな日本でも業績が伸びている企業は、まさにニッチ領域で高度な技術に世界からの大きな注目を集めていたり、グローバルで多様なリソース、人材を活用し、競争力を維持しているようなところです。
参考:独立行政法人経済産業研究所 | 知識の多様性と経済成長
営業コストはどうやってカットするか
ざっくりですが、特に予算化をした後にも変動が大きい、もしくは変動させやすい主な営業コストの種類は以下の通りです。あくまでも一例ですので、どの企業にも当てはまるわけではありません。
- 基本人件費
営業プロセスのマーケティング強化により労働生産性を上げる。具体的には、効率よく営業成績を上げるためのマーケティング組織を立ち上げ、直接個々の顧客へ訪問する営業とのバランスを取っていくことです。 - 残業・時間外・休日手当
業務配分の見直しから属人化を解き、特定社員への業務集中を減らす。
具体的には、特定の人材に属人化してしまっているノウハウを共有する対策を打つことです。
また、定例ミーティングのオンライン化やビジネスチャットで不要なミーティングを削減することも効果的です。 - 電気代、水道光熱費
テレワーク推進で消費量を減らし、且つ時間外労働を減らす。
現場への直行直帰、リモートワーク の推進により、無駄な移動時間や不要な労働時間の削減を推進します。手法として、ワークフローのデジタル化やクラウドPBXの導入などがあります。 - 旅費交通費・出張宿泊費
他部署、地方営業所、パートナー企業との連携を密にし、余分な外出を減らす。
リモートワーク推進で、離れた場所、関係性にあるパートナーとの共創を活発にしていきます。
シンプルにカットするでもいいのですが、それでは単に組織が疲弊するだけです。私はそれよりも、ちゃんと戦略を持った対策が必要不可欠ではないかと思うのです。
つまり、ちゃんと市場に対して付加価値を生み出せる組織に変化する必要があるのではないかと思います。
インプットよりもアウトプットが大切
昭和、平成と比較すると、今はネットやSNSからあらゆる情報をインプットできる時代になりました。
逆に情報量が多すぎて、自分にとって情報の中のどこの部分が本質的に有益なのか、判断することが難しくなっています。
つまり、インプットばっかりされていて、実は知らないことなのに知っている状態にされてしまっているわけです。以前の職場でも、「最近の新入社員は人の話を聞かないで分かったつもりになっている」と感じている方々が多かったのですが、まさにそれはインプットされる情報の多さが原因ではないかと思うのです。
真に必要なことは、一人ひとりからアウトプットされるパフォーマンスを最大化することです。
そのためにはインプットされたことを自分ごとにできる機会を十分に与えてあげることが不可欠なのです。
これは有力企業の経営層からアンケートを取った
「生産性向上のために自社で対策が必要な項目」です。
その中でも特に意見が多かった上位3つは、「社内コミュニケーション向上」、「イノベーション力向上」、「社員の成長」です。
これって、つまりは企業が本来持っている、知財・スキルの共有、利活用が十分にできていないということなんですよね。
最近ではさらに、パンデミックの影響でテレワークの機会が増えていたり、そもそも外に出かけて他人と接する機会が減ってしまったなどの悪影響もあるかと思います。
これは何も日本だけの話ではなく、世界中でこういったことに課題を抱えている企業はあるのだと思います。
そこで積極的にやらなければならないことは、アウトプットする仕掛けを作ることです。
たとえば、ビジネスに直結しなくてもいいので、この期間にお互いが得たことをプレゼンし合うようなことをやってみたり、いい機会でもあるので、現在の会社の立ち位置や ペルソナ をみんなで ブレインストーミング してみるなんてこともいいかと思います。
世界は確実に変わってしまったということを認知すること
今まではこうだったからとか、前例がないからとか、一人ひとりが今はそんなことを言っている状況ではないことを認知することです。
グローバルはさらなる生産性向上のために、今まで以上にアウトプットの付加価値を上げる戦略を打ってくるはずです。もはやビジネスはドメスティックな環境で繰り広げられているわけではなく、グローバルにそして、全く別の価値観を持つプレイヤーさえも参加して繰り広げられているのです。
そして、以前のブログでも書いた通り、今は1社がすべてのことをゼロから作り上げる時代ではなく、様々なインフラやオープンソースが作り上げる環境を相互に利用し、できる限り効率的にビジネスを共創していく API 連携の時代です。
同じ会社やグループの中なのに、異なるプラットフォームを使って分断され、非効率的なマネジメントをしている企業がたくさんあります。これではイノベーションを起こして生産性を上げるどころか、自然に生まれるはずのシナジーさえ埋もれてしまいます。
人は考え方で自ら動く
他人をインセンティブや恐怖で無理に動かそうとしても、大抵は失敗に終わります。
大切なことは、考え方を学んでいただくことです。
以前、家電量販店で働いていたときにトップがよくおっしゃっていたのは、「悪いことをした社員を責めても効果はない。それよりも、どんな考え方でそれを行ったのかをインタビューし、組織にとって正しいと思える行動はどんなものなのかを自らの価値観で考えさせることをしなさい」ということでした。
つまりそれは、無理やりこちらの価値観をインプットするのではなく、自らのアウトプットにより、自分から気付かせるということです。
人の成長には、この自らアウトプットしてみて、何が正解なのかを考えさせることが一番有効だと考えています。そして、正しい考え方を身に着けたら、後はそれを習慣化していくこと。
マネージャーがやるべきことは、それをそっと支えてあげることです。決して、叱責したり無理に価値観を押し付けたりしてはいけません。
現代社会では、このインプットされた情報を自ら考え抜き、そのうえで行動(アウトプット)し、そこから自分なりの答えを見つけ出していくことがおざなりになっているように思えます。
人はハイハイしかできない赤ん坊のときに、這いつくばって物や他人に手をかざし、その距離を測ることでインプットしたものを、一旦処理してアウトプットしていくことを学んでいくのだと言われています。
それが人の成長を支えているのは、何も赤ちゃんに限ったことではありません。失敗から成功を学ぶといった考え方も、根底にはこうした人間的な機能が関係しているのです。
いま、世界は確実に変化しています。
ぜひ、その情報をインプットするだけではなく、自らの考え方で料理し、アウトプットすることをたくさんやりましょう。
世界はそのチャレンジを”学び”というのです。
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