以前、ショールームや店舗で仕事をしていた頃、カラーコーディネーターの勉強をしました。
しかし、実は私…遺伝性の色覚異常を患っており、微妙な色の変化に対応することが実に苦手なのです。
それにも関わらず、新規出店店舗のデザインを考えたり、その後はチラシデザインやWebデザインなどの仕事もこなしてきました。
一体なぜ、身体的に苦手な分野で、そのような仕事をこなすことができるのか。
そのヒントは、目で見える色彩がすべてではないということに起因しているような気がします。
この記事のインデックス
色はなぜ眼に見えるのか
実は色は電磁波のひとつでして、正式には色の感覚を眼の中で引き起こす光のことを「色を感じる」と表現しています。この世界には、眼に見えていないだけで、ラジオ波、マイクロ波、赤外、紫外などもあり、どれも光の波長のひとつなのです。
色は皮膚でも感じているらしい?
人間の皮膚は2つめの眼といわれています。
人体を作っている酸素、炭素など様々な元素は、色の光をキャッチすると呼応して生体反応を起こします。
こんな有名なエピソードがあります。
皆さま、ヘレンケラーの自伝をお読みになられたことはありますか?
ヘレンケラーは2歳の時に高熱にかかり、視力、聴力、言葉を失ってしまいますが、自伝「わたしの住む世界」の中で、
「私はスカーレット(緋色)とクリムソン(深紅色)の違いがわかります・・・」といっています。
この文章からも、彼女が色を十分に色を感じていることが表れています。
色は温度も変えてしまう?
赤色の部屋と青色の部屋を用意し、同じ温度、湿度にして被験者にそれぞれの部屋へ入ってもらうという実験があったそうです。
結果、赤い部屋に入った人は、脈拍、呼吸数、血圧が上がったことで、その場の温度を暑く感じ、逆に青い部屋に入った人は、脈拍、呼吸数、血圧が下がり、その場の温度を涼しく感じたという結果が出たそうです。
科学的に説明すると、赤は赤外線の隣に位置する色であり、波長が大きいので筋肉の興奮効果があり、暖かく感じる色となります。
また、青は紫外線よりに位置する色であり、波長が小さく、さざ波のような優しい波長なので、筋肉の弛緩効果もあり、涼しく感じる色となっています。
ちなみに、この実験では、目隠しをした状態でも同じような結果が得られているんだそうです。やはり、効果があるのですね。
余談ですが、黄色は自律神経を活発化させる効果があるそうです。
心臓、肝臓、胃や腸の活動を活発化させることで、陽気になって上昇志向をもたらすそうですよ。
色は時間の経過も変えてしまう?
赤色の部屋と青色の部屋では、時間の感覚も異なります。
たとえば、赤い部屋にいると、30~40分ぐらいしかいなくても、1時間ぐらいそこにいたような感覚になります。
それに対して青い部屋では、1時間いても30~40分ぐらいしか経っていないような感覚になります。
個人差や環境の差はあると思いますが、約2倍の感覚の違いが出るということです。
たとえば、一般的にファミリーレストランでは赤を基調とした暖色系でデザインされます。
これは、食欲を沸きたて、楽しいイメージになるのと同時に、少しだけ過ごしただけでも、十分な時間を過ごしたような満足感を与え、回転率を向上させているのです。
逆に、単調で長い時間を費やする作業などは、青を基調とすることが望ましいといわれています。
色で自殺者を減らしたり、暴力を抑えたりできる?
皆さんは、黒を見てどのように感じますか?
初対面の方が全身真っ黒な恰好をしている場合、どのように感じるでしょうか?
ひとつの見解として、黒は絶望の色といわれています。
人が自殺を考えるような心理状況下では、黒色の中にいると希望を見いだせず、鬱状態に陥ります。
逆に、再生を表す緑色の中にいると、リラックス効果が得られ、心理状態が安定するといわれています。
これについて有名なエピソードがあります。
ロンドンのテムズ川にかかる「ブラックフライアブリッジ」は、当時、その名の通り、 見るからに陰鬱な、いかめしい感じを与える黒色の鉄橋でした。
しかし、その色を明るい緑に塗り替えることで、自殺者を3分の1まで減少させました。
また、アメリカの刑務所では、従来、無機質であった壁をピンク(薄いサーモンピンク)に塗り替えたところ、皆、一様に大人しくなったという事例があります。
しかし、濃いピンクでは赤の刺激が強いため、その効果は得られませんでした。
薄いピンクで効果が出たのは、薄いピンクは子宮内膜の色に近く、胎内にいるような安心感を無意識に覚えているといわれています。
また、これにちなんで、スイスの刑務所では「クールダウンピンク」というプロジェクトが行われています。
色で勝負に勝ち、難しい商談も成立?
赤を用いると20%勝率が高いという結果もあります。
イギリスの科学誌「ネイチャー」に掲載された記事によると、ボクシングやテコンドー、レスリングなどの格闘技では、赤のウェアを着用した選手の方が、勝利数が多いという結果が掲載されています。
※参照 Nature 435, (19 May 2005) Psychology: Red enhances human performance in contests
赤は脈拍、呼吸数を上げる興奮作用があり、且つ、自律神経、交感神経を活発に働かせ、アドレナリンやノルアドレナリンといった覚醒ホルモンを分泌させ、全身を奮い立たせる効果があります。
また、テストステロンという男性ホルモンの濃度を押し上げるという推測もある為、アメリカでは、交渉ごとには赤のネクタイや赤のハンカチを必ず使用するといった習慣があります。
トランプ前大統領が、よく赤のネクタイをしていることは有名ですよね。
あのネクタイですが、なんと、「ドナルド・トランプ・シグネチャー・コレクション」というブランド名で商品を作り、販売しているそうです。さすが、元ビジネスマンですね。
色で食欲が変わる?
これは料理をされる方々の間では有名なお話ですね。
視覚は、人の5感の中で8割以上を占めるといわれています。
そういったことから、物事の印象を決める際に、色が最も大きな割合を占めていることがわかっています。
それは、同じ中身の飲み物でも、そのカップの色やパッケージによって、その印象だけでなく、味覚さえも大きく変えてしまうということに繋がります。
これにも有名なエピソードがあります。
バターは本来白ですが、白はラードのような脂っこいイメージがすることから全く売れず、薄い黄色に着色したところ、まろやかな味わいのイメージが膨らみ、売れるようになったということです。
ソーセージも薄い茶色が古く腐ってきたようなイメージであった為、着色をすることになったそうです。
また、ある実験では、被験者に目隠しをさせ、鼻をつまんでもらい、生のスライスしたじゃがいもを食べてもらうと、それぞれがりんごを想像したという結果もあります。
以上のように、人間は眼で感じた色に他の感覚までもが影響を受けてしまうという事実があります。
社会心理学でよく出てくる「メラビアンの法則」でも、人の第一印象は3~5秒で決まり、その情報の大半は視覚情報から得られると言われております。
細かくは、視覚情報が55%、声のトーン、話し方などの聴覚情報が38%影響し、なんと、話の内容の言語情報はたったの7%といわれています。
つまり、その人がいくらいいことを言っていても、見た目の印象が悪ければ会話の内容が入ってこない可能性があるということなんですね。
自分の特質、特色やアイデンティティを考えたとき、色は自分を見つめ直す最良のツールとなります。
自分の色を受け入れると同時に、相手の色を受け入れることができれば、コミュニケーション力の向上にも大きく役立ちます。
しかし、だからといって、いつも利用する空間の壁や床の色を事あるごとに変更することは不可能です。
そんなとき、映像や照明、音響を使った空間デザインが活躍してくれることでしょう。
日常に色の概念を取り入れ、効果的に使うことができれば、働く意欲やビジョンの共有、企業のブランディングなど、様々な場面で人々の共感を誘うことができるのではないでしょうか。
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